僕らのシナリオ
もう恥ずかしいとか、逃げ出したいとか、そういう気持ちではなかった。
ただ幸せで、こうしてずっと笑っていたいと思う。
両想い、みたいな照れ臭い関係ではなくて、もっとそれ以上の関係、気持ちが通じ合っていて、だれよりも大切にしたい人。
飯島はそういう相手だと、思った。
「あはは、はあ、そっか……
昨日からすっごい悩んだけど…意味なかったな、はは。」
そこでやっと飯島の顔を見ると、飯島はまだ小さく笑いながら楽しそうに微笑んでいた。
それを見て、本当に安心する。
飯島と仲良くなって、よかった。
飯島に告白して、よかった。
飯島が笑っていてくれて、よかった。
好きでいてもらって、よかった。
僕は一息ついて立ち上がると、不思議そうにこっちを見上げる飯島の目の前まで、水をざばざば言わせながら歩き、立つ。
「飯島。」
「……なに?」
「なんか、これじゃ締まらないので、改めて………」
一度咳ばらいをして、飯島に手を差し出す。
「僕と付き合ってください。」
今さら、ずいぶんと忘れていたセミの声が耳に留まる。
いつの間にかさっきよりもうるさく鳴くセミの声と、少し大きめの川の水の流れる音で、意外と周りがうるさい。
でも僕は、目をそらすことなく飯島を見つめた。
飯島が、赤い顔でふわりと微笑む。
「…………よろしくお願いします。」
優しく僕の手を握る飯島の手を握り返して、僕も微笑んだ。
前言撤回だ。
今日の僕は、相当ツイてる。
僕は握りしめた飯島の手を強く引いて立ち上がらせると、勢いで少しよろめく飯島を支える。
「……明日ひま?」
「え?」
「明日さ、ひまだったらどっか行こうよ。」
また幸せそうに微笑んでうなずく飯島に、僕はまた笑ってから飯島の手を引いて川を出ると、サンダルをはいて飯島もサンダルをはくのを待つ。
「とりあえずもう昼だし、なんか買ってご飯食べよ。」
「うん。何がいいかな…。」
「やっぱ冷たいのがいいよな〜。夏といえば、冷し中華?」
「いいかも!私キュウリが好きなんだ。」
「キュウリ?珍しいね。」
「そう?泪くんは何が好きなの?」
「んーそうだな………エビかな。」
「エビもいいね〜。」
そんな会話をしながら、僕らは近くのコンビニに向かった。
どちらからともなく、しっかりと手をつないで。