僕らのシナリオ









「ん………………。」


寝返りをうって、部屋が明るいことに気づいて薄く目を開く。



水色のカーテンから漏れた光りが、部屋の中を穏やかな色の明かりで照らしている。

タイマーにしておいた冷房が、その役割を果たしてわずかな機械音を出していた。




「いま………なんじ…………?」


ベッドの横に置いてある小さな棚の時計を、何度かかすりながらやっと掴む。

アナログの針が示すのは、11時半。




「…………はあ。」



ありえない寝坊。

少し痛む頭に顔をしかめ、長い髪をかきあげながらゆっくりと起き上がる。



立ち上がってカーテンを開けに行くと、確かに強い日差しが部屋に一気に差し込んだ。




「……………夏だな……。」



そうつぶやいてカーテンを開けベッドを整えると、静かに部屋を出る。


階段を降りて、ダイニングへ。



自分の裸足の足音しかしない家の中を、ゆったりと歩いてキッチンに向かった。


冷蔵庫を開けると、昨日の夕方に作った夕食の残り物がそのままの状態で残っていて。

冷蔵庫の中身はすべて昨日のまま。一昨日のまま。


私が使わないかぎり、仕事のない冷蔵庫に、一度ため息をつくと、昨日の残りに手を伸ばす。




プルルルル……



家の電話の音がするので、残り物をまたしまって冷蔵庫を閉めると、リビングにある電話まで少し走る。


忍耐強く鳴る電話を、とる。




「………はい、宮田です。」

『おっせーよ。』

「…しょうがないじゃん。」


この電話が鳴るときは、たいていこの声が聞こえてくる。

いっつもぶっきらぼうな、ゆうちゃんの声。



『お前さ、今日休みだったよな。』

「うん。だから家にいるんだよ。」

『母さんがお前も昼飯に呼べってうるせぇんだよ。来る?』

「お昼ごはん……?」

『ああ、大したもんじゃないけど、暇だろ?』

『また余計なこと言って!さよちゃーん、おいでよ〜。』

『母さんうるせぇよ!さっさと飯作ってこいって!』

『はいはい、かしこまりました〜。』



受話器の向こうでわいわいと騒ぐ親子に、思わず笑ってしまう。

3年前から単身赴任であまりお父さんが家に帰って来られないのに、ゆうちゃんの家はいつでも2人で賑やかだ。


あの家にいるのは、私も好き。



「あはは、じゃあ、これからお邪魔しようかな。」

『早くしろよ。先に食っちまうからな。』

「え〜、待っててよ。」

『いいから早くしろ。』

「はいはい。じゃ、あとでね。」

『ん。』



受話器を置いて部屋に向かいながら、鼻歌まじりにTシャツを脱いだ。






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