僕らのシナリオ
1年目:秋
夏休みも終わって、新学期。
久しぶりに会う友達は、みんながみんな面白いくらいに日焼けしていて、くっきりと服の跡の残った肌を見せ合ったりしていた。
そういう僕もそれなりに日焼けしていて、未だに少しひりひりする。
僕は夏休み明けの高いテンションで騒ぐ生徒の人込みをぬって自転車をこぎ、久しぶりの登校をした。
「泪くん。」
自転車を停めているところで、うしろから声をかけられて振り向く。
「おはよ。」
僕がかばんを肩にかけながら言うと、そこにいた飯島がいつものように微笑んだ。
「おはよ。教室までいっしょに行こ。」
「うん。」
朝とはいえ、照り付ける太陽とアスファルトの熱気の中、僕は額にたまった汗をふいて飯島の横に並ぶと、ふたりで歩き出した。
「久しぶりだね。長野どうだった?」
「すごく涼しくて気持ちかった!いとこもみんな元気だった。」
「いいな〜。ここは暑すぎるよ。」
「暑いねー。けっこう日焼けしたんじゃない?」
「そう?飯島は焼けないね。」
「でもちょっとは焼けたよ〜。」
一週間ぶりくらいの再会で、いろんな話をしていると、つい夏休みに2人で遊んでいた気持ちになってしまって、僕たちは気づいていなかった。
まわりの、視線とか。
教室に入ると、夏休み前とは少し空気がちがうような気がして、一瞬立ち止まる。
飯島も同じように不思議そうな顔をして僕を見上げるが、気のせいかと思ってお互いに自分の席に向かった。
ため息をついて窓際の自分の席に座ると、珍しく早く来ていたらしい中野が僕の横を通り過ぎて、すれ違い際に上半身を傾けて僕に耳打ちをする。
「お前ら、しばらくは大変だぞ。」
「は?」
聞き返したころにはもう中野は自分の席に向かってしまっていて、首を傾げる。
不思議に思いながら、かばんの中身を机の中にしまっていると、中野の代わりにクラスメイトの男子が数人ニヤつきながら近づいてきた。
「なに?その顔。」
僕が思わず顔をしかめてそう聞くと、男子たちは僕の机を囲むようにして言ってくる。
「みーやけくーん。」
「さすがモテ男はちがうね。」
「聞いたぞ?あの飯島夏美と付き合ってんだろ〜?」
「……は?」
思わず聞き返してから前のほうの飯島の席を見ると、飯島も飯島でクラスの女子に囲まれていて。
その少し後ろの席の中野は、僕のほうを見て片方の眉を上げて同情するような顔になると、舌をだして右手の親指で首を切る仕種をした。
僕はそれに目だけで答えると、片手で思わず額を押さえた。