僕らのシナリオ
「………もしかしたら……僕と付き合うことで、これから飯島が嫌な思いをしちゃうことが…あるかもしれないんだ。」
「…………うん。」
「でも、そういうときは、ちゃんと僕に言って。僕はそんな嫌な思いをするために飯島と付き合ってるわけじゃないんだよ。
飯島とは、幸せでいたい。」
「……うん。」
「それと、どんな嫌なことがあっても、飯島は堂々としてて良いよ。前にも言ったけど、僕が好きなのは飯島だから。だれが何言ったって、飯島が好きだから。」
「………うん。」
飯島がしっかりうなずくのを確認して微笑むと、僕は飯島が書いていた日誌を手にとる。
「じゃあ、これ早く完成させて、いっしょに帰ろ。」
「……うん!」
飯島は自分のかばんを机の横からとって、教科書をしまいはじめる。
元気そうな飯島を見て、本当に安心する。
今のは本当に本心だった。
飯島とは、幸せでいたい。
飯島の笑顔を見ていたくて、気持ちを打ち明けたのだ。後悔はさせたくない。
でも。
『あんたは宮田と仲が良かったから、相手が宮田ならってこの子は諦めたのに……』
あの女子の言葉が、やたら頭に残ってしまった。
ああいうふうに思っている人は、他にもいるのだろうか。
もしもそうだったら、宮田さんも、飯島も傷つけてしまいそうで怖い。
「飯島………。」
「ん?なに?」
飯島が僕を微笑んで見上げるが、僕はその顔を見つめているとなんだか平気な気がしてきて。
それに、今日の宮田さんもいつもどおり元気だった。
心配、しすぎかな。
「………ん、なんでもない。準備できた?」
「あ、うん。お待たせ。」
「いいよ、じゃあ帰ろ。」
「うん。」
僕は飯島が立つのを待つと、飯島の歩調にあわせてゆっくりと歩き出す。
長い一日ではあったけど、こういう経験も必要だったのかもな、と思う。
「また明日もこんなんだったら嫌だな〜。」
「ふふ、そうだね。ちょっと緊張しちゃったから。」
「どうしていいかわからないよね。」
「そうそう。」
でも、お互いしばらく距離を置くとか、そういう選択肢はまったくなかった。