僕らのシナリオ
1年目:学園祭
「はい、カット〜。」
部長のあげる間延びした声とともに、息を潜めていた部員たちが一斉に動きはじめた。
学園祭に向けて、映画研究部はすでに映画の撮影をはじめ、残すシーンもあとわずかになった。
キャストとスタッフの主要メンバーは中等部の3年生ばかり。
高等部は高等部で別の映画制作にまわっている。
「じゃあ、確認はじめるんでみんなは休憩で。」
『はーい。』
先輩たちが今撮影したシーンの確認をはじめるのを見届け、僕も使っていた大道具を持ち上げる。
撮影をしていた教室を出て、大道具を少し離れた部室の倉庫に運びながら僕は放課後の校庭をながめた。
運動部も学園祭の準備をしているようで、ほとんどが食べ物の屋台を出す運動部は最近は練習をしていない。
いつもよりも静かな校庭では、数人がわいわいとサッカーをしているだけだ。
僕はポケットからカメラを取り出し、その光景を撮影する。
「三宅ー!」
廊下の先から名前を呼ばれて、僕は振り向いた。
すると今回の映画撮影で脚本を任されている高橋先輩がこっちに走ってきていて。
高橋先輩は穏やかな優しい先輩で、その脚本にも性格が滲み出ている。
綺麗なストーリーでありながら、ベタにはならず、しかし緻密に計算された完璧なストーリー構成には、僕はいつも感心していた。
「高橋先輩、どうしたんですか?」
高橋先輩は少し息をきらして僕の前に立つと、丸めた台本で頭をかきながら困ったように微笑んだ。
「いや、それがさ………」
「だあーまじどうすんの?」
教室に戻ると部長が椅子いっぱいに身体を伸ばしていた。
まさに、お手上げ。
なんと、主演の女子の先輩が、今さっき大道具に足を引っかけて転び、どこをどうしたのか足をくじいて立てなくなった。
学園恋愛ものの今回の映画に主役がいなくてはどうにもならない。
しかも残ったシーンは最後のクライマックスの告白のシーンだけなのに。
さらにさらに悪いことに、主役の女子は陸上部という設定なだけに、足をかばって、無理に動きのないストーリーに書き換えるのも困難だった。
「やばいよね〜。別のシナリオ用意するか、他の主役たてるしかないよ。」
いっしょに教室に戻った高橋先輩が横でそう囁くので、僕はうなずいた。
教室に立ち込める重苦しい空気に僕もさすがに沈んでいると、部長が一度長いため息をついて立ち上がった。
「………とりあえずしょうがないから、陸上部に事情説明しに行ってくる。高橋、お前も。」
「ああ、うん。」