僕らのシナリオ




学校に着くのはいつも8時前だ。

早いときだと7時半。




この時間に教室にいるのはたいてい飯島さんだけだ。

教室に着くと、一番前の列の真ん中あたりに必ず飯島さんは座っている。


「おはよ。」

「あ、泪くん。おはよ。」


飯島さんは銀縁の眼鏡をかけた黒髪ストレートの女子で、学級委員をやっているのもあるけど、そのまま真面目な雰囲気を出してる。

わりかし静かなほうだけど、同じくあまりしゃべりたがりではない自分にとっては、なんとなく親近感がわく。



飯島さんとは去年から同じクラスだったこともあって、毎朝こう2人きりで顔を合わせていると、なんとなく中が良くなった。


「今日も早いんだね。」

「飯島さんのが早いじゃん。
なんか一回早く来ちゃうと、やめらんなくなんない?」

「うんうん、わかる。」



そんな会話をしながら鞄を机に置いて、それからずっとベランダにいるのが僕の決まりだ。



ベランダの柵にだらしなくもたれて、いつもコンビニで買うパックの飲み物を飲みながらみんなが登校してくる姿を観察する。


暇なように見えて、意外とこれが楽しい。



友達は気づくとこっちに手を振ってくれるし、遅刻したらしい生徒が焦って走っていく様子や、グランドで朝練をする野球部の練習も見られる。

小学生のころはこれでも少年野球に通っていて、かなり好きだった。



でも今は野球はやるよりも見るのが好きになってしまってる。


とくに理由はないけど、やっぱりシナリオ作りに夢中になってしまったのが大きい気がする。




コンビニで買った牛乳をストローで飲みながら、少しずつ通る人数の増えていく校門をぼんやりとながめていると、


「みーやけー!!」


下から聞き慣れた大声で名前を呼ばれて、高めに作られた柵から少し背伸びして下を覗き込む。


そこにはやっぱり、少し汗をかいてユニフォームを着た中野が立っていた。


「はよーっす!」

「はよ!お前相変わらず暇そうだな!」

「うるせーよ!朝練はー?!」

「今終わった!」

「そっか、おつかれー!」


中野は肩にかけたタオルで汗をふいて、いつもみたいに歯を見せた笑顔を浮かべる。




< 13 / 131 >

この作品をシェア

pagetop