僕らのシナリオ
教室に戻ると、なぜか片付けたばかりの教室が慌ただしくざわざわとしていた。
不思議に思いながら教室に入ると、戻ってきていたらしい高橋先輩が僕に気づいて駆け寄る。
「三宅、遅かったな。」
「あ、まあ……なんかあったんですか?」
「ああ、それがさ、代役が見つかったんだよ!」
「ええ?!まじですか!」
僕がそう叫ぶと、高橋先輩もうれしそうな安心したような笑顔を浮かべて、持っていた台本を広げる。
「なかなか適役でさ、撮り直しはヒロインのシーンだけですみそうなんだ。」
「ストーリーに変更はないってことですか?」
「そうそう。助かったよ〜。」
本当に安心したようで、気が抜けたようにしゃがみ込む高橋先輩に笑って、僕は横にしゃがんで聞く。
「でもよくそんな都合良い人見つかりましたね。」
「それがさ、さっき陸上部に話しつけに行ったときに、ひとり立候補してくれたんだよ。私やるやる〜ってさ。」
「えぇ?」
ヒロインが陸上部ということで、今年は陸上部にかなり世話になっていた。
道具を貸してもらったり、ヒロイン役の先輩は実際は映画研究部の部員で陸上初心者であるために、指導もしてもらった。
灯台もと暗しだ。
はじめっから陸上部の女子にヒロインを頼んでいたら簡単だった。
「………ありがたい話。」
「そう!そうなんだよ〜。あの子には頭が上がらない。」
するとそこで部長が声を上げた。
「はい!注目!
この子が我々の救世主でーす。」
その部長のご機嫌な声に、部員全員が注目し、歓声を上げた。
僕も立ち上がって、部員たちの隙間からなんとかその救世主とやらを見ようとする。
高橋先輩も立ち上がって、
「ああ〜、やっぱりかわいいよな〜。」
とつぶやき、うれしそうに台本で頭をかく。
中野と同じくらい背の高い高橋先輩は軽々と救世主を拝めているようで、僕は少し背伸びしてなんとか部長を見つけ、その横にいる女子を見る。
「あ。」
その女子に思わずそんな声をあげる。
部室からそのまま連れて来られたらしい女子はまだ陸上部のユニフォームを着たままで、様になっていた。
たくさんの歓声に少し照れ笑いを浮かべ、小さく頭を下げる。
その様子を呆然と見守る僕に気づき、彼女は僕を見つめたままにっこりと微笑んだ。
「西田瑠璃。
2年生Cクラスの陸上部員です。
よろしくお願いします。」