僕らのシナリオ
「てかお前さ、今日の数学の課題やったー?!」
「ああ?やったよ!」
「おおーさっすがるいちゃん!」
「うぜー。」
「お願い!あとでノート見してくんない?!」
顔の前で両手を合わせてわざとらしく目を閉じてこっちを見上げる中野に、思わず笑う。
「いいよー!」
「まじ?!」
「国語のノートならね!」
「ふざけんな!!」
「ははは!」
「じゃ、たのんだぜー!」
「ん!じゃあなー!」
片手を上げて更衣室のほうへ走っていく中野に、僕も片手で手を振ってまた柵から降りる。
中野はふざけるときはいつも僕のことを『るいちゃん』と呼ぶ。
三宅泪。
小さいころは、この名前が好きじゃなかった。
女子にしか見えない名前なうえに、たとえ『ルイ』と呼ぶにしても『泪(なみだ)』だなんて情けないにもほどがある。
下の名前で呼ばれるのは今でも苦手で、それを許しているのは中野と飯島さんだけだ。
中野はああ見えていいやつだから、僕が自分の名前を気に入っていないことを知っていながら、ああやって冗談めかして呼んでくれる。
飯島さんは、なぜだろう?
それに、他のクラスメイトに時々『泪くん』と呼ばれると少し気持ち悪いのに、飯島さんに呼ばれてもなんとも思わない。
変なの。
「三宅くん。」
名前を呼ばれて振り向くと、隣の席の西田さんがベランダへの入り口に立っている。
クラスでは一番かわいいってみんな言ってるけど、僕にはよくわからない。
確かにぱっちりした二重の目をしていて、色白。
肩まで伸ばした髪はとてもきれいで、それは僕もいつも感心していた。
「おはよ。」
「あ、おはよ。あのね、さっきプリントが回ってきて……」
「プリント?」
「うん。今度球技大会があるでしょ?それの、どの球技に出たいかっていうアンケートみたい。」
「へー。わざわざ教えてくれたの?」
「え?あ、うん。朝礼のときに集めるみたいだから。」
「まじ?助かった。ありがと。」
そう言うと西田さんはにっこり笑って、自分の席へと戻っていく。
僕もしばらく賑やかになった教室をながめてから、教室へと入った。