僕らのシナリオ
自分の席に戻ると、確かに机の上に置いた鞄の上に、ふわりとプリントが置かれていた。
藁半紙のプリントを手にとる。
『球技大会・希望調査アンケート』
そう書かれたプリントに目を通すと、どうやら今年の球技は全部で、
テニス
バレー
バスケ
サッカー
野球
ソフトボール
らしい。
去年はサッカーに出たけど、あまりにガチな闘いで着いていけなかった覚えがある。
高沢中学の球技大会は、高等部と合同でやるためにかなり本気だ。
体育は嫌いじゃないし苦手というわけでもない。
むしろ好きだけど、でも自慢できるほどの運動神経でもない。
その僕がまともに参加できる球技っていったら……
「野球、かな…………」
そうつぶやいてシャーペンで野球のところに丸をつける。
さらに一番下の名前とクラスを書くところにシャーペンを当てたところで……
「あ。」
プリントの一番下、気になる文章を見つける。
『ご協力ありがとうございました。
執行委員 宮田沙世』
宮田さんが作ったんだ。
てか、さよってこういう字なんだなーと思っていると。
「お、お前今年は野球なんだ。」
そんな声に目を上げると、ポケットに手を突っ込んで野菜ジュースを飲む中野が僕のプリントを覗き込んでいた。
「ん、まあね。」
「お前野球うまいもんなー。」
「そ?さんきゅ。中野はバスケだろ?」
「いや、みんなそう言うんだけどさー。」
「ちがうの?」
予想外の返事に思わず顔を上げる。
中野は天井をあおいで考えこむようにうめくと、またプリントを見下ろしてポケットに入れていた手で頭をかく。
「だってさ、朝も夜もバスケ尽くしなのに球技大会までバスケだなんて嫌になるだろ。」
中野の言葉にその状況を想像してみる。
だがやっぱり、今まで何かに打ち込んだことのない自分からしたらよくわからなくて、あきらめる。
「あーなんとなくわかるけど、そういうもん?」
「そういうもんだよ。だから俺も野球にしよっかなー。」
「はあ?だからってなんで野球だよ。」
すると中野はしばらく黙ってから、思いついたように片手を頬に当てる。
「るいちゃんといっしょがいいの。」
「はいはい。勝手にしろよ。」
約束していた数学のノートをわたすと大人しく自分の席に戻っていった中野に小さく笑い、プリントに名前を書き込んだ。