僕らのシナリオ
この高沢学園は、中高一貫の学校であるために、生徒の数は多い。
最近改築したきれいな校舎は4階建ての中等部の校舎と同じく4階建ての高等部の校舎。
それから実験室やらパソコン室やら特別教室ばかりの研究棟、学生食堂、それから体育館と、5つもの校舎が立ち並ぶ広い敷地。
さらに広いグラウンドと、きれいな中庭が広がっている。
そのうちの一つ、学生食堂の真ん中に中野と僕は立っていた。
「あちゃー。出遅れたな。」
そう言って右手で頭をかく中野に、僕もうなずく。
そこらの学校よりも美味いらしいこの学生食堂は、毎日ごった返す。
今日はなぜかとくに混んでいて、2人いっしょに座れるような席が見当たらなかった。
「やっちゃった。
しょうがないから中庭行こうよ。」
生徒たちの話し声や食器のぶつかる音でうるさい中、少し声を上げて僕がそう言うと中野もうなずく。
「しょうがねぇな。
パン買いに行くか。」
そう言って僕らは食堂を出た。
毎日昼時になると、中庭の一角に赤色のワゴンが止まる。
パン屋の車だ。
車の横にたくさんのパンを広げた机が置いてあって、安いながら美味しいと評判。
パンを買うために集まる集団を掻き分けて、中野と僕は顔を出した。
「お!まだメロンパン残ってるぞ、三宅。」
「え、まじ?」
中野はバスケ部に所属していて、中学生ながら175cmもある長身。
170cmにおよばない僕にとっては憧れで、こんなときも人込みより少し高い位置に頭のある中野がうらやましい。
「おばちゃん、メロンパン2つ。」
「あ、あとカレーパン!」
必死でパンを買って、やっとの思いで人込みを抜ける。
「よし。じゃあどっか日陰探そうぜ。
ったく、まだ春だろ?なんでこんな暑ぃんだよ今日は。」
ブレザーを脱いでシャツだけのはずの中野が、腕まくりをしながら手で顔をあおぐ。
「あちーよなー。
だから学食も混んでたんじゃない?」
僕もブレザーを脱ぎながらそう言って歩きはじめた。