僕らのシナリオ








毎日が飛ぶように過ぎて行って、明日が球技大会当日になった。


あまりにも人数が多いため、球技大会は毎年2日間にわたって行われる。

今年は2日目休日にかぶるため、来週の月曜日は振り替え休日。


それだけでテンションも上がるものだ。




宮田さんは昨日から球技大会の飾り付けなどで忙しいみたいで、校舎を走りまわっている姿をよく見る。


今日は明日のために体を休めようと、うちの野球チームも早めに練習を切り上げた。


僕は教室に置きっぱなしにしていた鞄をとりに教室に戻ってきたところだ。



どのチームもやっぱり今日は練習が短いみたいで、いつもよりも静かな校舎。


教室に入る前、きっとこの教室には、まだ一人だけ、生徒が残っているんだろう、と思う。



球技大会の練習がはじまってから、ずっと放課後のこの教室のベランダから、外をのぞいている存在がいるのを僕は知っていた。





「飯島さん?」



声をかけながら教室のドアを横にひくと、やっぱりベランダに彼女はいた。


「泪くん…………」

驚いたように振り向く彼女に微笑んで、自分の机の上の鞄を指差す。


「鞄、とりにきた。」

飯島さんもそれに微笑んで、うなずく。

「うん。とりくると思ってた。」


それに小さく笑って、僕は机に近寄って鞄を持ち上げる。




「待ってたの。」



突然ベランダからかけられた声に、顔を上げる。

飯島さんは少しうつむいたまま、髪を耳にかけて言う。



「泪くんが、教室にまた来ると思ってたから、待ってた。」

「………どうしたの?」

「あのね…………」


飯島さんは困ったように微笑んで、顔を上げた。


「時間、あるかな?」










僕と飯島さんは、ベランダに並んで外をながめた。

はじめは気まずそうに丁寧にそろえて柵に置いた手に顔をうずめていた飯島さんも、少しずつ、話しはじめた。



「………あのね、前に、私がなんで球技大会に出ないのかって言ったでしょ?」

「うん。」

「私ね、あの…………もともと身体が弱くて………」


それに驚いて飯島さんのほうを見ると、まだ気まずそうに目だけで僕を見上げて、またグランドのほうへ戻す。




< 29 / 131 >

この作品をシェア

pagetop