僕らのシナリオ





僕は飯島さんを自転車の後ろに乗せて、いつもの堤防へと連れて来ていた。


「あはは、自転車の後ろに乗るのもはじめてだから、ドキドキした。」

「そうなの?怖くなかった?」

「うん、楽しかったよ。」

「じゃあよかった。」


僕は堤防へ降りると、鞄を置いて中をあさった。

飯島さんは立ったままその様子を不思議そうにながめていて。


僕は鞄の中から目当てのものを見つけると、それを飯島さんへと投げた。


「わっ。」

そう言って飯島さんは、僕から野球のグローブを受け取った。


「え?これ、グローブ?」

「うん。キャッチボールしよ。」



その僕の言葉に、飯島さんが絵に書いたようなきょとん顔をする。

しばらくしてはっとした顔をすると、手を横に振って焦ったように言う。


「えぇー無理無理。
やったことないし、怖くて……」


そう言う飯島さんに、僕は笑って近寄ると、野球のグローブを手にかぶせてやる。



「大丈夫。
グローブでキャッチすれば指を痛めることはないし、ちゃんと飯島さんがキャッチできるように投げるよ。」

「え、でも…………」

「僕が野球得意なの知ってるでしょ?」



そう言うとまた飯島さんは驚いた顔をして、そしてうれしそうににっこり笑う。


「……うん、知ってる。
キャッチボール、やってみよっかな。」


僕もそれに笑って、少し飯島さんから距離を離すと、

「行くよー。」

と声をかける。


「う、うん。」

緊張した顔でグローブをかまえる飯島さんに少し笑って、ボールを山なりにゆっくりと投げた。



パシッ!


軽い音がして、ぎゅっと目を閉じた飯島さんが目をひらくと、グローブにはしっかりボールが握られていた。


「や、やった!とれたよー!」

いつもの飯島さんには考えられないくらい子供っぽく喜ぶ飯島さんにまた僕は笑って、グローブを振る。


「じゃ、次僕に投げて!」

「うん!」


慣れない手つきで投げたボールは意外と正確に僕のグローブへと吸い込まれる。


「おーうまいじゃん!」

「ほんと?」

「うん、うまいうまい。
ほら、もう一回投げるよ!」

「はーい。」



僕と飯島さんは、結局暗くてボールが見えない時間までキャッチボールをして遊んだ。





< 31 / 131 >

この作品をシェア

pagetop