僕らのシナリオ
飯島さんの家は意外とうちから近くて、僕は飯島さんを家まで送った。
きれいな家から飯島さんのお母さんらしいおばさんが焦って出てくるが、飯島さんから話を聞くとひどく喜んだ。
「ほんとにありがとねぇ。
またキャッチボールの相手してやってください。」
「あ、はい、もちろん。」
僕がそう言うと、飯島さんもうれしそうに笑って、玄関へと入っていく。
最後に振り向いて、
「あの、ほんとにありがと。
明日、応援するからがんばってね。」
やんわりと微笑む飯島さんに僕はまた微笑んで手を振って帰った。
「おかえりー、遅かったじゃない。」
「ん、ただいま。」
もう夕飯の匂いのする家に入ると、母さんが出迎えてくれた。
あまりにもお腹がへっていたのですぐに食卓へ行くと、珍しく早く帰ってきていた父さんと、10歳の妹の桜がもう食卓についていた。
「お兄ちゃんおかえりー。」
「泪か。遅かったな。」
「ただいま。」
手を洗って僕もいすに座ると、母さんもテーブルについて、食事がはじまる。
すると桜が、ごはんでいっぱいになった口を懸命に動かしながら言う。
「ね、ね、今日もお兄ちゃんは優太くんと遊んでたの?」
桜は中野に妙になついている。
この年でもう面食いなのかな?とか考えるが、なんだか怖くなってやめる。
「んー、中野じゃないよ。」
「じゃあさよちゃん?」
「はあ?お前宮田さんのことも知ってんの?」
すると母さんがそれに答える。
「この前、中野くんといっしょにうちに来たかわいい子でしょ?
桜ったらあの子にもなついちゃって。」
「なんだそれ。」
すると母さんがうかがうように僕を見上げる。
「もしかしてほんとにその宮田さんと遊んでたの?」
「は?何その顔。ちがうよ。」
母さんはそれでもまだしばらく僕を疑わしげに見ると、なぜかため息をつく。
「はあ、うちの子もそんな年頃なのね。
とにかく、彼女ができたらすぐに母さんに言うのよ!」
「はあ?何言って………」
「そうだぞ。そういうことは正直に話してくれたほうが父さんたちも……」
「父さん!」
「お兄ちゃんカノジョできたの?」
「桜!!!!」
結局その日は僕の彼女がどうとかの会話で、一日を終えたのだった。