僕らのシナリオ
「お前、くだらないことばっか言うなよ。」
「くだらなくねーよ!死活問題!」
「は?んなこと言ったら僕だってモテたいよ。」
「お前なに言ってんの?」
ただでさえがたいの良い吉田に、少しすごんだ顔をされて少し後ずさる。
吉田は僕の頭を少し強めに押さえ付ける。
「お前自覚ないの?」
「なにが?」
「お前だってモテてんだよ。」
「は?馬鹿言うなよ。」
あまりにふざけた言葉に、吉田の手をどけて帽子を直す。
さらにいまやっていた試合が終わったようで、準備のためにベンチへ向かおうとするが吉田は後ろからまだ何か言ってくる。
「お前は中野とつるんでるから自覚がないだけだよ。
お前のファンだって多いんだぜ?」
「はいはい。」
「それにお前は目立ちたがりじゃないから今まで際立ってモテなかっただけで、一回目立っちまえばモテモテだぞ?」
「わーい。」
「この試合が終わったらお前はどうなるか………」
「ほら、吉田いい加減にしろよ。
試合試合。」
昼時の春とはいえ暑い日差しに、冷たいドリンクを包んでいた飯島さんのタオルは心地好かった。
先攻となった僕らのチームは順調にアウトをとった。
僕もそこそこのパワーをつかいながら、コントロール重視で吉田のミットを狙った。
さすが現役野球部なだけあって、吉田のリードは完璧。
ただ吉田がミットを構えた場所に投げるだけで簡単にストライクがとれた。
6回表。
お互いに無失点の状態で、ツーアウト1塁。
ストライクツーのカウントで、一度左手で帽子を外し、肩で汗をふくと、
「三宅ー!!!!!!」
人一倍馬鹿でかい声にふりむく。
すると1塁側のフェンスの向こうにさっきからいた中野の隣に、テニスのユニフォーム姿の宮田さんがいて。
いるはずのない姿に呆気にとられていると、
「ピッチャー、投げてください!」
審判からそんなふうに言われて慌てて構える。
少しカーブをかけた球に、バッターは空振り。
「スリーアウト!チェンジ!」
審判の声にベンチへ駆けながら、帽子を少し上げて中野たちへ合図する。
宮田さんがこちらに手を振るので微笑み、ベンチへ入った。