僕らのシナリオ
1年目:夏
「だあああああ!あちぃ!!!」
「あーもう、うるさいなあ。」
隣で大声で叫ぶ中野に、僕は暑苦しくてそう答えた。
夏の日差しは朝から容赦なく降り注いでいて、まだ家から出たばかりなのにうっすらと汗が額に浮かぶ。
ただでさえ暑いのだ。
暑くてイライラするのだ。
なのに。
「あちぃあちぃあちぃあちぃあちぃあちぃあちぃ………」
「うーるさいって言ってるだろ!」
僕は思わず叫んだ。
今は朝。
しかしテスト期間に入って部活停止をくらっている中野はいつもの朝練はなく、ここのところ去年のように僕は毎朝中野を迎えに行っていた。
後ろでまだ中野は暑い暑い言っているが、中野は僕の自転車の後ろに乗っているのだ。
自転車をこぐのは僕。
中野は座っているだけ。
「だーって暑すぎだろ、これ。
コンビニ寄ってこうぜ〜。」
「…………はあ。」
うちわで扇ぎながらそう言う中野に僕はひとつため息をついて、重いペダルをもう一度押し込んだ。
「おはよーっす。」
「はよー。」
「三宅、おはよ。」
「よ。」
「おーい、中野くんのこともかまって〜。」
球技大会のおかげでクラスのやつとも前より仲がよくなって、いつものようにみんなが声をかけていく。
僕は自転車をとめて荷物をかつぐと、口にくわえたコンビニで買ったアイスの棒を手にとる。
駐輪場の外で待っていた中野は、まだ暑い暑いと言いながらアイスの棒をぷらぷらと口にくわえて手をズボンのポケットに突っ込んでいて。
「…………だらしないの象徴。」
「あ?何か言いましたか?」
「なにもー。」
比較的新しい高沢学園は教室に冷房がついている。
朝、早く来る当番の先生が全部の教室の冷房をつけていてくれるために、朝の教室は天国だ。
教室のドアを開け、そこで立ち止まって中野がため息をつく。
「ああ〜、文明の理器ばんざい。」
「ほんと、それ。
てか早くそこどいてよ。
僕にも文明の理器味わせて。」
中野の背中を押して、僕もやっと教室に入った。