僕らのシナリオ
またどこかのクラスが体育をやっている。
見るかぎり、トラック競技をやっているようだ。
そこで数人がグラウンドの隅からハードルを運んでくる。
小学校のころにハードル走をやっていておもいっきりこけた記憶が蘇ってきて、顔をしかめる。
「ん。」
そこで見知った人影があるような気がして目を細める。
ハードルを運んでくる女子の中に、ひとり。
長い髪をポニーテールにしている。
「………宮田さんか。」
さっきは木の影だったからわからなかったけど、かなり髪の色が薄いようで、ここからだと茶色にも見えるくらいだ。
肌も色白で、3階にあるこの教室からだとハーフにも見えた。
頬杖をついていないほうの左手でペンをくるくると回しながらそう考えていると、
「じゃあ、ここからを三宅くん。」
「へ?」
ぼーっとしていた中、突然呼ばれてそんな馬鹿みたいな声を出してしまう。
「三宅くん?続きを読んでくれるかな?」
穏やかな声でそう言う村田先生の顔を見て、キョロキョロしていると、突然ポケットの中の携帯が震える。
びくりと体を動かして携帯を取り出すと、ディスプレイに中野の文字。
中野の方を一度見て、焦って携帯を開く。
『37ページ
5行目』
「三宅くん?」
「あ、はい。」
先生にまた呼ばれて、急いで37ページを開きながら横目で中野を見る。
僕よりも2列前の廊下側に座っている中野は、さっきと同じように寝ているはずが、左目を薄く開く。
そして組んだ腕の右手を机の影でピースの形にした。
僕はその中野に小さく微笑み、立ち上がって教科書を読みはじめた。
「三宅、じゃあな。」
「ん。じゃなー。」
部活に向かう中野に手を振って、鞄に教科書をつめていく。
春とはいえ夕方になるとまだ肌寒い空気にブレザーを着ると、思い肩掛け鞄をかけて教室を出た。