僕らのシナリオ
「ああ、この問題はさ、この公式の応用みたいな感じなんだけど、この問2でやったときは……」
僕が説明していくと、飯島さんはうなずきながら小さく教科書にメモしながら計算式を書いていく。
「……そうそう。で、最後にこっちとこっち計算しちゃえば…」
「あ、できた。」
「そ!意外と簡単でしょ?」
「ほんとだね。泪くん教えるのも上手なんだ。」
「そうかな。ありがと。」
「ううん。こちらこそ、ありがと。」
飯島さんに微笑んでから中野のほうを見ると、中野は自分のかばんを抱きしめるようにして僕をにらんでいて。
「…………なに?」
「俺にも教えてください。」
「えぇ?!やだよめんどくさい。」
「たーのーむーよー!!」
手を頭の上で合わせてそう言う中野にあきれていると、隣の飯島さんが教科書を閉じながら微笑む。
「中野くんにも教えてあげれば?
泪くんの教え方、ほんとにわかりやすいし。」
「えー。相手が飯島さんと中野では全然ちがうんだよ。
飲み込みの早さっていうかさ。
こいつ基礎からわかってないんだもん。」
「そうなの?」
「飯島さんも中野の去年のテスト見たら引くと思う。」
去年から同じクラスの飯島さんが頭が良いということは、僕は知っていた。
高沢学園は、テスト終了後にクラスごとに全員ぶんのテストの結果が玄関に張り出される。
全科目の合計点とクラス内の順位、また、学年のトップ10人の名前も出される。
去年の飯島さんは毎回クラスでトップで、学年でもトップ3には毎回入るほどだった。
それに比べ中野は、どの教科も毎回赤点ぎりぎり。
むしろ必ず2教科3教科は再試の常連だ。
「頭の良いやつらなんて嫌いだ。」
そうつぶやいて中野がすねていると。
「ゆうちゃーん、今回もピンチなのかな?」
そう言いながら宮田さんが教室のドアから顔を出す。
「宮田!聞いてくれよ〜三宅がさあ〜。」
「はいはい、どうしたの?
ママが聞いてあげよう。」
助けが来たとばかりに顔を輝かせる中野に、宮田さんが慣れたようにうなずく。
「宮田さん、どうしたの?」
「ゆうちゃんがテスト前日に焦るのはいつものことだから、今日も助けに来たのです!」
「へ〜。さすが幼なじみ。」
「ふふ。」
宮田さんはにこにこと微笑んでいると、中野がその宮田さんに僕が勉強を教えてくれないとか、数学の必要性がわからないだとか愚痴りはじめる。
それを僕と飯島さんがながめていると、
「さよー!結局先帰っていいの?」
と、だれかが廊下から声をあげる。
僕たち4人が注目する中で、ドアが開いて3人の女子が顔を出した。