僕らのシナリオ
「さよちゃん!!」
家に入った途端、宮田さんに桜が飛びつく。
あらかじめ母さんに中野たちが遊びに来るとメールしておいたから、それを聞き付けて玄関で待ち構えていたらしい。
「桜ちゃーん!久しぶりだね〜。」
「さよちゃん全然来ないから寂しかったよ〜。
優太くんばっかり来るんだもん。」
「さーくーらー。
年上にその口の聞き方はないだろ!」
中野が桜をくすぐりにかかり、桜もまんざらでもないようにキャッキャと喜ぶ。
「あー、もう。桜いい加減にしろよ。」
僕が桜の首根っこをつかんで中野から引き離すと、桜が中野と宮田さんのうしろにいた飯島さんに目を向ける。
「あれ?だれ?」
「だれ?じゃない。もっと他の言い方しろよ。
同じクラスの飯島さん。」
「いいじまさん?」
やっと靴を脱いで家に上がった中野と宮田さんのうしろから飯島さんが顔を出す。
桜の目の前でしゃがんで、いつもの穏やかな顔で微笑んで桜の頭をなでる。
「はじめまして。飯島夏美です。」
「なつみちゃん?」
「うん。なつみ。
よろしくね、桜ちゃん。」
桜はそれに一気に気をよくして満面の笑みを浮かべた。
飯島さんもそれに微笑んで僕を上目遣いに見上げる。
「桜ちゃん、泪くんにそっくりだね。」
「そう?性格は正反対だよ。」
「ふふ。」
飯島さんが立ち上がって靴を脱ぎ、失礼します、と言って家へ入ると。
「あらー!!なんてこと!!」
家の奥からばたばたと母さんが出てくる。
「あら、あらあらあら。
また女の子がうちに来るなんて…」
「母さんうるさ……」
「おばちゃーん!俺のこともかまってよ〜。」
「ふふふ、中野くん久しぶりね〜。
さらに男前になったじゃないの!」
「まじ?いや〜ん。」
僕のことなんかほっといて、妙に仲の良い母さんと中野が会話する。
僕は一度ため息をつき、大きく息を吸い込む。
「ほら!!勉強すんだろ?
2階に行った行った!」
僕は桜とじゃれる宮田さんと、母さんと話す中野と、きょろきょろと家の中を見回す飯島さんの背中を押して階段を上がった。