僕らのシナリオ
時間は夜の8時。
結局僕らは中野への教育に時間をとられてなかなか勉強が終わらず、母さんが作ったおにぎりや炒めたソーセージや卵焼きをつまみながら、夜まで勉強していた。
「……………。」
部屋に時計の針の音だけが響く。
時折、ぽつりぽつりと、
「飯島さん、この文法ってさ……」
「これはね、これが主語だから…」
と会話を交わすくらいだった。
ちなみに中野は、今は真面目に勉強していた。
というのも、母さんがおにぎりやらを持ってきてくれたとき、それまでまともに勉強しなかった中野に宮田さんが、
『だめ。
ゆうちゃんはノルマを達成するまではごはん渡さないから。』
と言い、いくつかのノルマを中野に課せて、それを達成するたびに少しずつ夜食を小出しにするために、必死で勉強をしていた。
いまの中野は最後のノルマ、数学のテキスト30ページ全問正解、という中野にとっては無茶苦茶なノルマを、最後のおにぎりを賭けて必死でこなしていた。
テーブルに残った最後のおにぎり。
はじめはベッドに横になって勉強していた中野が、いまはあぐらをかいた膝の上に置いた教科書とノートに、必死でペンを走らせている。
「………………終わったあああああ!!!!」
そう言って教科書とノートを放り投げ、おにぎりに中野が手を伸ばすが、素早く宮田さんがおにぎりを取り上げる。
眼鏡をかけていないのに、眼鏡を持ち上げる仕種をして中野を半目で宮田さんがにらむ。
「ノルマは全問正解でしょ?
答え合わせするまでおあずけです。」
「宮田このやろー………」
僕は宮田さんに渡された中野のノートを広げ、汚い文字をなんとか読みながら丸をつけていく。
「……………………。」
「………………どうだ?三宅。」
「…………………ん。おしかったね。1問不正解。」
「はあああ?まじで?まじで言ってんの?」
「たった1問でも不正解は不正解だよ。残念。もう一回やり直し。」
「宮田………」
「だめだよ、中野くん。
もう1回がんばって。」
「なっ、飯島まで…」
「ほら、ノート返すから。
がんばれ中野。」
「三宅てめぇ………」
結局中野は1時間後に、冷めたおにぎりを食べたのだった。