僕らのシナリオ






僕の部屋で爆睡する中野をよそに、僕は宮田さんと飯島さんを家に送っていた。



「ね、三宅くん。」

「んー?」

「あのさ、また家に遊びに行っていい?」

「ああ、全然いいよ。
そういえば前に新しくカメラ買ったんだよ。」

「ほんと?!いいなー!」

「でしょー?
それも見せたいからいつでも来て。」

「うん!楽しみにしてる。」



僕は自転車をひきながら宮田さんを家まで送り、そのあと飯島さんの家まで向かうことにしていた。


「じゃあね、三宅くん、なっちゃん。」

「またね。」

「さよちゃんばいばい。」



宮田さんを見送り、僕はひいていた自転車にまたがった。

不思議そうな顔をする飯島さんに、僕は微笑む。



「うしろ、乗って。」

「え?」

「前に河原行ったときにさ、2人乗り初めてって言ってたでしょ?
せっかくなんだから、またやろ。」

「………うん。」


眠いのか、少し落ち込んでいるように見えた飯島さんが、また幸せそうな顔になるので安心する。



中野よりもずっと軽い飯島さんは、後ろに乗せても全然大変じゃなかった。

小さく僕のカッターシャツの背中を握る飯島さんの手を感じながら、静かな夜道を走る。



「こんな遅くなってごめんね。」

「あ、ううん。
お母さんも三宅くんたちとなら、遅くなっても安心だからって。」

「そっか、よかった。」


「…………。」


「あのさ。」

「……なに?」

「なんで元気ないの?」



シャツを握る飯島さんの手に、少し力がはいるのがわかる。

僕は少し迷ってから、道の脇に静かに自転車を止めた。


ハンドルからは手を離すが、降りないままで言う。



「………飯島さんがさ、最近元気ないから、気にしてたんだよね。

なんとなく…だから、間違ってたら、悪いけど。」



シナリオを書いていて言葉を選ぶのは得意なはずなのに、なぜか言葉がうまく出てこない。




「球技大会のときにも言ったけど、さ。

僕は、飯島さんにはなんでも言ってほしいし、僕も飯島さんにはなんでも言うよ。

だから………」


「泪くん。」



ずっと黙って聞いていた飯島さんの声に、言葉を止めて振り向く。


飯島さんはうつむいたままで、自転車のライトしかない夜の闇の中では顔がよく見えない。





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