僕らのシナリオ
映画研究部の部室は、研究棟の中のパソコン室。
もともと部員も少ないうえに、創作映画のコンクールが近づかないかぎり全員が集まることもないため、いつも放課後のここは静かだ。
先生から預かったカギを使ってパソコン室を開け、いつもの真ん中あたりの席に座ってパソコンを立ち上げる。
自分のIDを入力すると、いつものデスクトップが開く。
画面にはたくさんのアイコンが現れた。
すべてが、僕の作ったシナリオだ。
『空の道』
『冬の向日葵』
『revenge』
今までに作ったシナリオの数だけ、アイコンが増えていく。
この映画研究部で、実際に映像にしたものもあれば、そうでないものもある。
映画にすることがすべてではない。
その中でひとつ。
『無題』
というアイコンをクリックする。
これが今僕が作っているストーリー。
純愛だ。
だが、なかなか題名が見つからない。
純愛のシナリオなんて書くのははじめてだし、シナリオ自体探り探りで書いている。
僕は鞄の中からシナリオノートを取り出し、今日書き足したぶんのシナリオをパソコンに打ち込んでいった。
打ち込みながら、今回は失敗かな、なんて考える。
まったく心に響いてこないのだ。
選んだ言葉のすべてが、嘘臭い。
そりゃあそうだろう。
恋、なんて、したことがないんだから。
そこでキーボードを打つのをやめ、回転する椅子の背もたれに身体をあずけ両手を頭のうしろで組む。
「恋、ねぇ…………」
「恋がどうかしたの?」
「うわっ!!!」
突然聞こえただれかの声に、思わず椅子から転げ落ちる。
「ごめーん!大丈夫?!」
ばたばたと走ってくる音に頭を押さえながら顔を上げる。
「宮田さん?」
予想外の姿に思わず聞く。
走って教室へと入ってきたのは、宮田さんだった。
暑かったのか、ブレザーを脱いでセーターになった制服。
髪はまたおろしていた。