僕らのシナリオ








結局そのままうちに泊まっていった中野をたたき起こして、一度中野の着替えに中野の家によってから、僕らは学校に向かった。



「ねみぃー……頭いてぇ。」


寝癖のついた短髪を風にさらしながら、あくび混じりに中野が言う。


僕は自転車をこぎながら後ろの中野の眠そうな声に笑う。


「ていうかお前だってチャリ持ってんだから自分のチャリで学校行けよ。」

「あ?今さらそういうこと言う?
朝練がある日はちゃんと朝起きてチャリで行ってんだから、たまには休ませろ。」

「こっちの台詞だよ。
僕だって毎日中野乗せんのは重労働なんだよ。」

「台詞っていえばお前、シナリオはどうなってんの?楽しみにしてんだけど。」



中野の言葉に僕は少し考えて、答える。



「とりあえず純愛は延期。
今は青春のやつ書いてるけど、今はテスト期間だから休み中。」

「えぇ?なんでやめたんだよ。」

「いや、だってさ、そんな恋愛とかにほど遠い僕に純愛のシナリオなんか書けるわけなくない?」

「はは!お前らしいな。」

「うるさいよ。」




学校に着くと、テストだからかほとんどの生徒が早く登校してきていた。


「あ。」

その中に見覚えのある後ろ姿を見つけて、急ブレーキをかける。

「おわっ!」

急な停止で後ろの中野がチャリから落ちる音がするが、気にしない。



「飯島。」


声をかけると、びっくりしたように飯島が振り向く。


「あ、泪くん……。おはよ。」

少しぎこちない笑顔に、ただでさえ名前を呼ぶのに緊張していたこっちまで調子が狂いそうになる。

その自分に勝を入れて微笑むと、自転車から降りて横に並ぶ。



「今日はちょっと来るの遅いじゃん。珍しいね。」


飯島は僕の顔を見て少し力を抜いたようで、いつもの笑顔で笑う。


「うん。ちょっと寝坊しちゃって……」

「寝坊?あんまり寝てないの?」

「……ん、ちょっとね。昨日はなかなか寝れなくて…」

「ふーん。テストで寝ないでね。」

「だ、大丈夫だよ!」

「あはは。」




僕が駐輪場に自転車を停めてくると、いつの間にか追いついた中野が飯島と何か話していて。

中野が笑って何か言い、なぜかガッツポーズを作って飯島を軽く小突くと、飯島さんがそれに少し照れたように笑う。





それになんだか。



なんだか、もやもやして。







「……………。」



僕が近づくと、飯島は少し焦った顔をしてからいつもの顔に戻る。


なぜだかわからないが、僕はいつもの自分でいられる気がしなくて、2人の少し前を歩いてさっさと教室に向かった。







< 70 / 131 >

この作品をシェア

pagetop