僕らのシナリオ
「三宅、じゃあな。」
「ん。部活がんばって。」
「お〜。」
久しぶりの授業も終わり、再開した部活に向かう中野の背中を見送る。
中野は部活がまた始まるのをめんどくさいめんどくさい言っているけど、結局はバスケが好きで、やりたくて仕方がないのだ。
少し機嫌の良さそうな背中に笑ってから、僕は重いかばんを持ち上げて校門へ向かう。
「あ、やば。」
そこで忘れ物に気づいて、また振り向いて机の中を探す。
シナリオノート。
もうしばらく書き足していなかった。
いつもなら、目の前の景色とか出来事をなんでも書きたかったし、いつも持ち歩いていたのに。
「泪くん、帰らないの?」
声をかけられて顔を上げると、かばんを飯島が僕の机の近くにいて。
ああ、そうか。
最近は、中野や宮田さんや飯島とすごすことが多かった。
シナリオを書くような、一人ですごす時間なんて、なくて。
「帰るよ。でも今日は寄り道する。」
「あ、そうなんだ。私は今日塾だから……もう帰るね。」
「うん、ばいばい。」
「ばいばい。」
飯島に手を振る。
教室から出ていく飯島を見つめて、こんな生活もいいよな、と思い微笑んだ。
校門で自転車にまたがって宮田さんを待つ。
夏のじりじりした日差しを避けて校門の影にいるというのに、アスファルトが熱気をかえしてくる。
何もしていないというのに肌からじわじわと汗があふれ、通り過ぎていく生徒たちの真っ白な夏用シャツがまぶしい。
帰っていく生徒たちをぼーっとしていると、
「どーん!!!」
「うわっ!!」
明るい声とともに突然背中に衝撃を感じ、さらに自転車に重みがかかってバランスを崩す。
「あ、あぶな!」
なんとかハンドルを握って立ち直り、一息つく。
汗を拭きながら後ろを振り向くと、やっぱり宮田さんがうずうずした様子で後ろの荷物台に座ってこっちを見上げていて。
「おまーたせ!」
にっこり微笑んでそう言う宮田さんに怒る気にもなれなくてため息をつき、前を向いてペダルに足をかける。
「んじゃ、河原へしゅっぱーつ。」
「しゅっぱぁつ!!」
元気な声を背中に聞いて思わず笑い、僕らは河原に向かった。