僕らのシナリオ
「三宅くん!!」
突然名前を叫ばれて思わずびくりと身体を震わせる。
そんな僕の顔を見て、宮田さんは一気に顔をほころばせる。
ほんとに花が一気に咲いたような、輝く笑顔に僕は少し目がくらむ。
「三宅くんほんとにすごいね!
大正解だよ!」
大正解という言葉にやっと我を取り戻して、ほっとして僕も微笑む。
「よかった。間違ってたら格好悪かったしね。
でも前から言ってくれればなんか用意したのに。」
僕のその言葉に宮田さんは一瞬うれしそうな顔になるが、すぐに顔をふせて顔を少し赤らめる。
「それは…………まだ、いいの。」
「まだ?」
「うん。まだ………いつかね、いつかちゃんと私が………」
そこで宮田さんは僕のほうを見上げる。
僕も宮田さんを真っすぐ見返す。
さらさらと流れる川の音と、セミのやかましい泣き声だけがやけに耳に響く。
宮田さんはしばらく僕の顔を見つめてから一度微笑んで僕の後ろに目を移す。
「きれい…………。」
宮田さんの声に僕も後ろを振り向く。
すると。
いつの間にか沈み始めていた太陽が、オレンジ色の光りを放って地平線に座っていた。
河原からの眺めは最高だった。
ビル郡も今は遠く、小さくなっているために、今は視界を遮るものがない。
川の向こう岸の堤防を、どこかの中学校の学生が自転車で通っていく。
息をするのも忘れていたんじゃないかと思うくらい、この夕焼けのことしか考えられなくなる。
「………三宅くんなら。」
「ん?」
「三宅くんなら、この景色のこと、うまく表現できるんだろうね。」
「……どうかな。自分の目で見るのが、結局は一番きれいだから……。」
「……そうだね。でも……
今日のこと、文章にしてほしいな。」
「うん。」
「忘れないでね。」
「うん。」
宮田さんはうしろに放り投げてあったリュックからカメラを取り出し、うつむいてそのディスプレイを眺めながら、うすく微笑む。
「すてきな誕生日になっちゃった。」
僕がそれを見つめていると、突然宮田さんがカメラを僕に向けてシャッターをきる。
「え?」
突然のことに僕はそれだけしか言えない。
宮田さんはディスプレイで今の写真を確認して満足げに微笑むと、僕を見てまた微笑む。
「次はいっしょに写真撮らない?」
「えぇ?」
「えー嫌なの?」
「いや、そうじゃないけど……
なんか、照れるな。」
「ふふ、我慢して。いくよ〜。」
「ん。」
デジカメのシャッターの電子音が聞こえる。
自分がどんな顔をしていたかわからないけど、僕は少なくとも、幸せに笑っていたと思う。
7月20日。
僕は絶対この日を覚えると決めた。