僕らのシナリオ
「みーやけ!」
名前を呼ばれて顔を上げると、短髪から汗の粒が落ちるほど汗をかいた中野が、ユニホームの肩で汗を拭きながらこっちに歩いてきていた。
僕はノートを置いてかばんからポカリのペットボトルを取り出し、中野に向かって投げる。
「さんきゅ。」
中野はポカリを受け取って、喉仏を揺らしながら豪快に飲んだ。
バスケの見学をするたびに、中野に僕は差し入れをしていた。
「調子どう?」
置いたノートを手に取りながらそう聞くと、中野はペットボトルから口を離して僕の隣にどかっと座る。
「最高。」
「だと思った。」
当たり前のように言う中野に僕は笑って、またノートへと目を戻した。
「お前はどうなの?進んでるか?」
僕のノートを覗き込んで聞く中野に、僕はうなずいてからカメラを取り出す。
「けっこう良い感じ。
スポーツ系の書くのは初めてだから楽しいし、良い写真も撮れるからね。」
僕はいくつかの写真を見せながらそう言う。
中野は、おぉ〜これほしい、とか言いながら喜んでカメラを見ていて。
その中には中野がダンクシュートを決めた瞬間の写真まであって、我ながら上手く撮れたと思う。
でも中野のファンがこの写真見たらやばいだろうな、と思って、僕は身震いしてカメラを慎重にしまった。
「なあ、今週の木曜は練習休みだからさ、どっか行こうぜ。」
いつの間にか空になったペットボトルくるくると振りながら、中野が言う。
正直最近はひまだった。
中野は相変わらず部活ばっかりで、宮田さんも夏は大会に向けてテニス部の練習に行っているらしい。
飯島をひとり誘うのはなんだか照れ臭くてできないし、夏休み前の話では塾の夏期講習かなんかがあると言っていた。
結局ひまなのは僕だけで。
「ん。いいよ。どこがいい?」
僕がそう聞くと、中野は腕を組んでしばらくうめいてから、パチンと指を鳴らす。
「海。」
「海?」
僕が思わず聞き返すと、中野は名案だと言わんばかりに踏ん反り返って、
「夏といえば海。海といえば夏。
やっと夏休みらしくなってきたな!」
なんて言いはじめて。
僕は少し顔をしかめて、
「せっかくの休みなんだろ?
そんなとこ行ったら余計疲れるじゃん。」
と言うが中野は僕の言葉に、馬鹿言うなとばかりに顔をしかめる。
「馬鹿言うな。」
「まんまかよ!」
結局僕らは急遽海に行くことになったのだった。