僕らのシナリオ




体育館からの帰り道。


校門に向かって自転車をこいでいると、図書館の前に見知った後ろ姿を見つけて自転車を停める。

高沢学園は図書館も充実していて、4階建てなうえに地下にも一階分ある。


あまりに充実しているために、大学生までもが通う始末だ。



僕は自動ドアから出てきた背中を追って自転車をこぎ、声をかける。




「飯島!」



違う人だったらどうしよう……

そんな心配をしていたが、その背中はすぐに振り向いてくれた。


黒いさらさらの髪をなびかせて振り向いた飯島が、やわらかく微笑む。



「泪くん。久しぶり。」

「よ。って言ってもまだ一週間会ってないだけだけどね。」


僕が笑うと飯島もいつものように小さく笑う。

たった一週間なのにその笑い方がとても懐かしくて、安心する。



「今日はどうしたの?部活?」

「そ。あと中野のとこ行ってバスケ部の練習見学してた。」

「あ、そっか。バスケの話にしたんだよね。」

「うん。なんかバスケにはまりそう。」


そう言って自転車を引いていないほうの手でバスケのシュートの真似をすると、飯島は楽しそうに笑う。


「ふふ、野球ができるんだからバスケもできそう。」

「そう思う?でも僕手が小さいから。背が小さいんだけど。」


少しすねたように言うと、飯島は僕の頭を見つめてから首を傾げる。


「そうかな。泪くん最近背も大きくなった気がする。」

「うそ?」

「ふふ、ほんと。ちょっと視線が高くなったもん。」

「やった!よくわかるね。」


僕がそう言うと飯島は少し照れたように笑ってから、

「なんとなく、だよ。」

と言った。





学校を少し離れたあたりで、はたと思い出す。


「あ、そういえば今日は夏期講習は?」

飯島は一瞬きょとんとしてから、思い出したようにうなずく。


「ああ、あれは来週からなの。それも一週間だけだから、すごく楽。」

「えぇ?そうなの?」

「え?うん。どうしたの?」


僕の反応に不思議そうにする飯島に、僕は一度ここ一週間を思い出してため息をつく。


「それがさ〜、ここんとこ夏休み入ってもすーっごい暇だったんだよ。でも中野も宮田さんも部活だし、飯島は夏期講習だと思ってたから、さくらと遊ぶだけの毎日……」

「あはは、仲良しでいいね。」

「よくないよ〜。暇だったんだよ?飯島が夏期講習じゃないんだったらどっか誘えば……」


そこまで言ってなんだか恥ずかしくなって、言葉を止める。


でも失敗だった。


こんなところで言葉を止めたらむしろ逆効果なんじゃ……




と思って横目で飯島を見ると、飯島もなぜか少し恥ずかしそうにうつむいていて。


あ〜、まちがえたな、と思う。





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