僕らのシナリオ







「…………冷たい。」


川のほうをうつむいたままだが、確かに顔を輝かせて言う飯島に僕は笑う。


「でしょ?気持ち良くない?」

「……うん、気持ち良い。」


飯島は膝下まである川の水を見て、足を少しぱしゃぱしゃと動かす。


「……気持ち良い…。冷たい。」


同じことを繰り返しながら遊ぶ飯島に僕が笑っていると、川の中を少し大きめの魚が通る。



「ふわっ!!」

驚いた飯島が、苔の生えた石に足をすべらせる。


「っと、危な!」

僕は握っていた飯島の手をもう一度強く握って、引っ張る。



「あ、あぶなかった………」


そう言って心臓を押さえる飯島にため息をつき、手を握りなおす。



「はあ、危なっかしすぎ。
手、ちゃんと握っててよ。」


僕はそう言って、飯島の手を引いて少し川を進む。


「………うん。」

後ろから飯島のそんな小さな返事が聞こえて、落ち込んじゃったかな、と思って振り向く。


しかし飯島はしっかりと足元を確認しながら、通っていく小さなメダカを楽しそうにながめていて。

その顔が、まだほんの少し赤い。



僕はそれにまた微笑む。

また、飯島が楽しそうにするものを見つけた。



「飯島、ほら、あそこに鯉いるよ。」

「コイ?うそ?」

「ほら、あそこ。」



魚を見つけては飯島に教えて、川の中の石をどかして小さな魚を探してみたり。

小さなカニも見つけて、おびえる飯島にまた爆笑して。



はじめは冷たかった飯島の手が、少しずつ暖かくなっていくのがうれしかった。




結局夕方になるまで川に入って、日が暮れるまでキャッチボールをした。















「うそぉー!!!!」


吉川ちさは橋の上から思わず叫んだ。



「うそ?うそうそ。もしかしてあれって三宅くんじゃない?」

思わずちさは隣にいた天野南海の腕をゆすった。


「え?ほんとだ!しかも女の子もいっしょじゃん!」

みなみも同じように叫ぶ。


「やだー。私三宅くん推しだったのに〜。」

本当に涙目になりながら言う茜をよそに、ちさは目を細めて2人を観察する。



「手までつないでる……。もしかしてあの2人付き合って……」

「やだー!言わないでー!!」


ちさの言葉に茜が叫び、みなみがその背中をさする。



ちさはしばらくまた2人を見つめてから、


「………私、三宅くんはさよと何かあると思ってたんだけどな……」


と思わずつぶやいた。







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