僕らのシナリオ
『きたー!!!!』
僕と中野は電車を降りた途端叫んだ。
目の前には真っ青な海が広がっていた。
嘘みたいに果てしない海と、ゆったりとした曲線を描く地平線が地球が丸いことを僕らに思い出させる。
潮の香と波の音が、想像していたよりもずっと僕らのテンションを上げた。
「やべぇ!!!青い!!!」
「ほかになんかないの?」
僕は中野の肩を叩いて笑うと、サンダルをパタパタと鳴らしながら砂のまじったアスファルトの道を歩いて浜辺へ向かった。
夏休みの浜辺はやっぱり混んでいたが、早朝に出てきただけあってなんとか良い場所を確保することができた。
早朝の3時に昨日からうちに泊まりにきていた中野にたたき起こされて、わざわざ自転車をこいである程度の駅まで行き、始発に乗ってきたのだ。
こういうときの中野の寝起きの良さと行動力といったらない。
僕は恥ずかしいからやめろと言ったのに、電車の中で馬鹿でかい浮輪をふくらましたりしていた。
僕がTシャツと膝丈の短パンを脱いで、下にはいてきた海パンになっていると、中野はすでに海パン状態でいつの間にか膨らましたボールを放り投げて遊んでいた。
「はや。」
「お前が遅いんだよ。」
僕が脱いだのを見ると、中野は僕を引っ張って海に向かう。
「いいか!今日は思いっきり泳ぐぞ!!」
「当たり前だろ!」
僕と中野は思いっきり海に飛び込んだ。
恐れていたことが起きた。
薄々気づいてはいたのだ。
夏。
海。
水着。
条件はそろっていた。
「ねぇねぇ、君たちどこから来たの?」
明らかに僕たちよりも年上なお姉さんたちが、僕らに近づいてくる。
3人組なのに2人の僕らを狙ってくる。
中野がいるからな〜。
「あたしたち暇なんだ!いっしょに遊ぼうよ。」
「ね!遊ぼ!」
「ビーチバレーする?」
明らかに露出の多すぎる水着をちらつかせながらそう言ってくる。
まともな恋愛もしていないのに、正直そんな大人な恋愛には興味はない僕にとっては、このお姉さんたちになんの魅力も感じない。
だがさっきから、もう数えられないほどそういうお姉さんたちが僕らに声をかけてくる。
中野目当てで。
くっきりの二重に高い鼻。
バスケで鍛えた身体に無駄に高い身長。
そりゃあ狙われるだろう。
だけど。
大人な恋愛に興味がないのは僕だけではなかった。