僕らのシナリオ
でかい浮輪にだらしなく掴まりながら、中野がお姉さんたちと目を合わせることなくうなずく。
「あ〜、暇なんすね。」
「そうなのぉ〜。」
「でも俺ら暇じゃないんで。」
「は?」
「他に暇な男探してくださ〜い。」
あまりに素っ気ない中野の態度にお姉さんたちは明らかにひどく怒った様子で去っていく。
「…………怒ってる。」
「自分で声かけといてフラれたらキレるってどういうことだよ。」
「まあね〜。」
中野もあまりに声をかけられすぎて、うんざりしてきたようだ。
はじめは穏便に断っていたのに、どんどん荒くなってきている。
僕はぐったりした中野に少し笑って、中野の浮輪に掴まって浮かびながら聞く。
「僕はともかくさ、なんで中野は女子にモテてんのに付き合ったりしないわけ?」
「あ?」
中野は目だけでこっちを見てから、いつもの目を少し真剣な色に変える。
僕から視線を外して地平線を見つめ、静かに口を開いた。
「…………んなもん、決まってるだろ。
本気でそいつのこと好きにならない限り、付き合ったりできない。ちょっと気に入ったかな、とかそういう適当な気持ちで付き合いたくない。」
僕はいつになく静かで、しかし真剣に話す中野に少し目を見開く。
「……なんだよ。」
僕のその顔を見て、少し恥ずかしそうにすねる中野を僕は凝視した。
「……………それってさ、そのくらい好きになった人がいたってこと?」
僕が中野を見たまま聞くと、中野はすぐにまた地平線のほうへ視線を戻す。
浮輪の上に組んだ手に顔を乗せた中野は、僕からは長いまつげしか見えないけど、明らかに何か考えているようだった。
「……………さあ、な。」
聞こえるか聞こえないかの声で言う中野に、僕はため息をつく。
こうなったら中野は本当に言う気はないのだろう。
「気になるけど、まあ見逃すよ。」
そう言って浮輪から離れて泳ぎだそうとする僕に、中野はいつもの笑顔で笑いながら言う。
「はは。言っとくけど、俺もお前も恋愛経験値はいっしょなんだよ。」
「はあ?」
僕は思わず止まって、また浮輪のところへ戻りそこらへんに浮いていた中野のビーチボールを中野にぶつける。
「あのさ、お前はいっつも女子に囲まれてるわけだから、慣れてるじゃん。僕は未だに女子と話すのは苦手なの。」
少しすねてそう言うと、ビーチボールを投げ返しながら中野がまた笑う。
「それはまた別だろ?
お前だって最近は女子に囲まれてるじゃん。」