僕らのシナリオ





僕は中野の言葉に少し顔をしかめた。




球技大会以降、宮田さんの友達のちさちゃんたちも言っていたが、僕はなぜか人気を集めてしまったらしい。

球技大会が終わってすぐのころなんかひどくて、下駄箱には漫画みたいにラブレターやらアドレスの書かれたメモやらが入っていた。


最近は少しずつ収まってきたのだが、それでも女子が話し掛けてくる回数は増えたままだ。



だが、まったくうれしくない。


17年近く生きてきてモテ期とかいうのに憧れたりもしたが、実際になってみるとわずらわしいだけだ。

結局はただ興味のない女子に話しかけられるだけで、ちやほやされるのも苦手だし、良いことはない。




「…………お前の言い分もわかるよ。」


僕が思わずそうつぶやくと、中野は、だろぉ〜、とか言いながら浮輪の上でまただらだらし始める。



「まあ、他の女子に全く興味ないんだったら、お前は確実にだれか気になってるやつがいるってことだ。」


あっさりとそう言い放つ中野のほうを僕は焦って振り向く。

中野はそれにうれしそうに笑って、僕のほうをビシッと指差し、真っすぐに僕を見つめる。



「それはずばり、だれなんだ?」


中野の真っすぐな目に、思わずたじろいでしまう。



前にもこんな話になったかな。



でも、あのときとは確実にちがう感じが、確かに僕の心のどこかにあるのを感じた。

前のように、恋愛ってなんだろう、なんて気持ちだけで、ただぼんやりとしていたのとは違う。



僕は………







「あ。」

「?」


中野の声に振り向くと、背後にでかい波が迫ってきていて。



「うわっやば!」

僕は焦って中野の浮輪に掴まる。


すごい力で僕たちは波のあるほうへと引っ張られていく気がして、迫る波に思わず震える。


しかし中野は、


「きたー!!!」

と叫んで器用に浮輪から身体を出して浮輪に座るようにする。



「えぇ?!それ絶対あぶ……」


中野を引きずり下ろそうとしたそのとき、僕らは波に飲まれた。






「…………!!!!!」

声にならない悲鳴を上げながら波の中をごろごろと転がり、どこにどうぶつかったのか知らないが、いたるところに衝撃が走る。



「…………ぶわっ!!」


やっと触れた空気に思いっきり息を吸って、海独特のべたつきを顔から拭ってまわりを見渡す。


波に連れ去られて僕は浜まできていたようで、貝の混ざったざらざらした砂のうえに座っていた。


しょっぱい海水を口の中に感じながら、海からやっと顔を出した中野を見つける。






< 88 / 131 >

この作品をシェア

pagetop