僕らのシナリオ
僕は中野の言葉に少し顔をしかめた。
球技大会以降、宮田さんの友達のちさちゃんたちも言っていたが、僕はなぜか人気を集めてしまったらしい。
球技大会が終わってすぐのころなんかひどくて、下駄箱には漫画みたいにラブレターやらアドレスの書かれたメモやらが入っていた。
最近は少しずつ収まってきたのだが、それでも女子が話し掛けてくる回数は増えたままだ。
だが、まったくうれしくない。
17年近く生きてきてモテ期とかいうのに憧れたりもしたが、実際になってみるとわずらわしいだけだ。
結局はただ興味のない女子に話しかけられるだけで、ちやほやされるのも苦手だし、良いことはない。
「…………お前の言い分もわかるよ。」
僕が思わずそうつぶやくと、中野は、だろぉ〜、とか言いながら浮輪の上でまただらだらし始める。
「まあ、他の女子に全く興味ないんだったら、お前は確実にだれか気になってるやつがいるってことだ。」
あっさりとそう言い放つ中野のほうを僕は焦って振り向く。
中野はそれにうれしそうに笑って、僕のほうをビシッと指差し、真っすぐに僕を見つめる。
「それはずばり、だれなんだ?」
中野の真っすぐな目に、思わずたじろいでしまう。
前にもこんな話になったかな。
でも、あのときとは確実にちがう感じが、確かに僕の心のどこかにあるのを感じた。
前のように、恋愛ってなんだろう、なんて気持ちだけで、ただぼんやりとしていたのとは違う。
僕は………
「あ。」
「?」
中野の声に振り向くと、背後にでかい波が迫ってきていて。
「うわっやば!」
僕は焦って中野の浮輪に掴まる。
すごい力で僕たちは波のあるほうへと引っ張られていく気がして、迫る波に思わず震える。
しかし中野は、
「きたー!!!」
と叫んで器用に浮輪から身体を出して浮輪に座るようにする。
「えぇ?!それ絶対あぶ……」
中野を引きずり下ろそうとしたそのとき、僕らは波に飲まれた。
「…………!!!!!」
声にならない悲鳴を上げながら波の中をごろごろと転がり、どこにどうぶつかったのか知らないが、いたるところに衝撃が走る。
「…………ぶわっ!!」
やっと触れた空気に思いっきり息を吸って、海独特のべたつきを顔から拭ってまわりを見渡す。
波に連れ去られて僕は浜まできていたようで、貝の混ざったざらざらした砂のうえに座っていた。
しょっぱい海水を口の中に感じながら、海からやっと顔を出した中野を見つける。