僕らのシナリオ






中野は興奮した状態で海から上がり、近くに浮いていた浮輪をわしづかみにして僕のほうへ歩いてきた。



「やーっべぇな!海!!」

「海!!」


なんだかんだ楽しかった僕も合いの手を入れた。


そしてまた中野の背後の海が、勢いよく引いていくのを見つけ、僕は立ち上がって海へ走る。


「また来る!行こ!」

僕がそう言いながら海に飛び込むと、中野は浮輪をその場に置いて僕について走って海に飛び込む。


「よっしゃ!次は俺は波に勝つ!」

「意味わかんねー!」


僕らはそのあともずっと向かってくる波に飲まれつづけた。















「やばい!やばい!」


思わず遊びすぎた僕たちは、電車の乗り換えがあるのを考えずに夕方まで遊んでしまった。

シャワーの役割を果たしていないような出の悪いシャワーを適当に浴び、まだべたつく肌を無視して僕らは駅へ走った。



Tシャツを着ながらなんとか駅に到着し、閉まりそうなドアに中野と飛び込む。


「あーーっぶねぇ!!」

そう叫ぶ中野に僕もうなずき、息を切らしながら空いている席に座る。



海に電車で来るのは学生くらいなうえに、少し早めに帰る僕たちが乗る電車は混んではいなかった。

僕らのいる車両には、ぽつりぽつりと、客がいるだけで。




離れていく海を窓から眺めて、僕は息を整えながらぼーっとする。


肌が日焼けでひりひりして、サンダルは砂でじゃりじゃり。

夕日できらきら光る海が、これから帰らなければならないという切なさをさらに重くする。





この景色を、見せてあげたいな。






思わずそう思って、僕は微笑む。


ああ、やっぱり。

一番最初に思い浮かぶのはあの子の名前で。


幸せになってほしいと思う。




ずっと、好きっていうのがどういう感情なのか、わからないでいたけど。


言葉で現せない、なんて臭い台詞が、本物なんだなっていうのがわかった。



海を見てなんともいえない感動に襲われるのと同じように、彼女のことを考えると、なんともいえない切なさと幸せに包まれる。





きっと僕は。








「なあ、中野。」



「んあ?」



「僕は、飯島が好きだよ。」




「……そっか。」






窓に映る中野が、楽しそうに笑うのが見えた。















< 89 / 131 >

この作品をシェア

pagetop