僕らのシナリオ
中野は興奮した状態で海から上がり、近くに浮いていた浮輪をわしづかみにして僕のほうへ歩いてきた。
「やーっべぇな!海!!」
「海!!」
なんだかんだ楽しかった僕も合いの手を入れた。
そしてまた中野の背後の海が、勢いよく引いていくのを見つけ、僕は立ち上がって海へ走る。
「また来る!行こ!」
僕がそう言いながら海に飛び込むと、中野は浮輪をその場に置いて僕について走って海に飛び込む。
「よっしゃ!次は俺は波に勝つ!」
「意味わかんねー!」
僕らはそのあともずっと向かってくる波に飲まれつづけた。
「やばい!やばい!」
思わず遊びすぎた僕たちは、電車の乗り換えがあるのを考えずに夕方まで遊んでしまった。
シャワーの役割を果たしていないような出の悪いシャワーを適当に浴び、まだべたつく肌を無視して僕らは駅へ走った。
Tシャツを着ながらなんとか駅に到着し、閉まりそうなドアに中野と飛び込む。
「あーーっぶねぇ!!」
そう叫ぶ中野に僕もうなずき、息を切らしながら空いている席に座る。
海に電車で来るのは学生くらいなうえに、少し早めに帰る僕たちが乗る電車は混んではいなかった。
僕らのいる車両には、ぽつりぽつりと、客がいるだけで。
離れていく海を窓から眺めて、僕は息を整えながらぼーっとする。
肌が日焼けでひりひりして、サンダルは砂でじゃりじゃり。
夕日できらきら光る海が、これから帰らなければならないという切なさをさらに重くする。
この景色を、見せてあげたいな。
思わずそう思って、僕は微笑む。
ああ、やっぱり。
一番最初に思い浮かぶのはあの子の名前で。
幸せになってほしいと思う。
ずっと、好きっていうのがどういう感情なのか、わからないでいたけど。
言葉で現せない、なんて臭い台詞が、本物なんだなっていうのがわかった。
海を見てなんともいえない感動に襲われるのと同じように、彼女のことを考えると、なんともいえない切なさと幸せに包まれる。
きっと僕は。
「なあ、中野。」
「んあ?」
「僕は、飯島が好きだよ。」
「……そっか。」
窓に映る中野が、楽しそうに笑うのが見えた。