僕らのシナリオ
「これ、お土産。」
僕はかばんから手の平くらいの大きさの、お菓子の缶を取り出して飯島にわたした。
飯島は不思議そうにその缶うけとり、僕を見上げる。
「……お土産?どこか行ったの?」
「うん。中野と海に行ってきた。」
「海!いいね。ふふ、確かにすごい日焼けしたね。」
「でしょ?すごくひりひりするんだ。」
「いいことだよ。健康的。」
「あはは。」
飯島は少し目をふせて缶をうれしそうに見つめると、また僕のほうを見上げて微笑む。
「開けて、いい?」
「うん。」
飯島は丁寧に缶を開け、中を見て顔を輝かせる。
缶を傾け、中身を取り出した。
「きれい……。」
手の平に、少し大きめの薄いピンクと白の貝殻を乗せて、飯島はつぶやいた。
海で遊んでいて、偶然見つけた。
普通の海岸にしてはめずらしい、大きな巻き貝。
海に持っていっていたお菓子の缶に、思わずしまった。
飯島はずっとにこにこと貝殻を見つめていて、ほんとに拾ってきてよかったな、と思う。
飯島は貝殻を大切そうに両手で包み、うれしそうに笑いながら僕のほうを向く。
「泪くん、ありがとう。すごくうれしい。」
「……うん。そんな喜んでくれるんなら、ほんとによかった。」
そう言うとまた飯島が少し顔を赤らめて笑うので、見ていられなくて思わず目をそらす。
自分は飯島のことが好きなんだ、と自覚してから飯島に会うのは初めてだ。
好きな気持ちは前も今も変わらないはずなのに、なぜか前とは気持ちが違う。
無駄に心臓が痛い。
「…………ん。じゃあ、僕は帰るから…。」
そう言ってしまう自分にいらいらする。
これから暇?とか。
また河原行こうよ、とか。
次暇な日いつ?とか。
言うことはいっぱいあるはずなのに。
それよりも先に、今はとにかく早く飯島から逃げ出したくなる。
これ以上飯島の目の前にいると、顔が真っ赤になりそうだから。
飯島は不思議そうな顔をして僕を見てから、
「あ、そうだね。わざわざありがと。」
と微笑む。
その顔を少しだけ見て僕はなんとか微笑むと、足早に玄関の階段を降りて自転車にまたがり、そのまま何も言わずにペダルをこぎだした。