僕らのシナリオ
それから僕は、しばらく飯島に会うことはなかった。
なんの約束もしなかったし、改めて誘いに家に行くのも、やりすぎかな、なんて思うから。
でも正直。
会いたくて仕方なかった。
久しぶりに体育館に行った。
ドアを開けると、やっぱり前よりもずっと気合いの入った掛け声と練習風景が僕に飛び込んでくる。
僕は体育館の隅に腰を降ろすと、シナリオノートを開いた。
でも、なかなか進まない。
これから試合のシーンだからというのもある。
明後日の試合に応援に来れば、もしかしたらアイデアが浮かぶかもしれないし、ストーリーも思い浮かぶかもしれない。
でも、今はそのせいじゃないと思う。
「三宅。」
ペンを握ったままぼーっとしていた僕の名前をだれかが呼ぶ。
顔を上げると中野がボールを持って僕を見下ろしていて。
「久しぶりじゃん。」
「………ん、まあね。」
中野は僕からノートを奪うと、開いていたページをしばらく見つめてまた僕に返す。
「進んでない。」
何もかもわかったかのようにため息をついて中野は言い、僕の近くの壁にボールを投げてはキャッチをしたりし始める。
「飯島となんかあった?」
「………別に。」
「何も?」
「何も。」
「だめじゃん。」
「は?」
「好きってわかったのに、なんでなんもしねぇの?」
「……………。」
僕はしばらく黙り込んで、ノートを閉じて床に置くと、体操座りをして膝に頭を埋める。
「………知らない。」
「ああ?」
「知らない。わかんない。どうすればいいかわかんない。」
「ふーん。」
「妙に飯島の前にいると緊張するし………」
「ふーん。」
「………前のほうがよかった。」
僕のその言葉に、中野が跳ね返ってきたボールを掴んで止まるのが音でわかる。
「ほんとにそう思ってんの?」
僕は顔を上げないまま、黙って中野の少し怒ったような声を聞いた。
「まじでそう思ってんなら、お前馬鹿だよ。
前のほうが今よりはマシかもしんないけどさ、じゃあ前みたいに友達のままでお前はよかったわけ?
好きだって思ったんなら、好きだって言いたくねぇの?飯島は自分のだって言いたくねぇの?
今の状況が嫌なら、なんか行動しないといけないんだよ。」
中野の言葉を聞きながら、僕は顔を上げられずにただただうずくまっていた。