僕らのシナリオ






中野は痺れを切らしたようにため息をついてから、僕の前にしゃがみこむ。

僕は腕と膝の隙間から、中野を見つめた。



「俺はお前が飯島に本気なのかどうかもわかんねぇし、正直俺にはお前がなんで悩んでんのかもわかんねぇよ。

だけどさ、結局は今のお前に必要なのは、なんかすることなんだよ。
ぼーっと待ってて問題が解決するわけじゃない。そうだろ?」


ずっと話していた中野が、はじめて言葉を止めて僕の返事をじっと待っている。



「……………。」


僕はしばらくその中野の目を見つめてから、ゆっくり顔を上げた。







バスケ部の練習の声を遠くに聞きながら、僕らは体育館の外に来ていた。

ちょうど休憩になるところだったようで、中野は部員に声をかけて抜け出してくれている。


そんな中野に申し訳ないと思いながら心の中で感謝をし、僕はもうここ数日で何度目かのため息をついて渡り廊下の手すりにもたれた。



「ああ〜もう………。
でもさ、何かするって言ったって、まともに面と向かって話すこともできないんだよ?
どうしろっていうんだよ…。」


中野は手すりに背中からもたれてスポーツドリンクをのどを鳴らしながら飲むと、しばらく黙り込んでから答える。



「…………まずさ、お前の今の一番の問題は飯島のことを意識しすぎることだろ?
でも今のままだとどっちにしろ気まずいだけで、結局辛いだけじゃん。」

「……………何が言いたいわけ?」



僕がそう言うと、中野は振り向いて僕と同じように手すりにもたれると、冷えたスポーツドリンクを僕の頬に軽くぶつける。


僕がそれを受け取ると、中野はなぜか楽しそうな顔になって、僕から視線を外して笑いながら言った。




「飯島に会いに行けよ。」



「…………は?」





あまりにもそのまますぎる言葉に、僕は思わず目を見開いて聞き返す。



「だーかーらー、飯島に会いに行けって。」

「は?だからさ、会ってもなんにもでき……」

「できるかどうかはお前次第。
そうだな〜、来週の夏祭りとかいいんじゃねぇの?」

「ちょ、ちょっと………」

「夏休み!夏祭り!いいね〜青春だね〜。」

「お前いい加減に……」

「そうと決まったら今日にでも誘いに行けよ!善は急げだ!」

「おいおい…………」



僕の言葉なんか無視して勝手に盛り上がる中野に僕はもうお手上げだった。



いや、というより中野の答えはもう予想できていた。

答えははじめからひとつしかなかったんだ。


結局は、会いに行く。



ただ、その勇気がなくて、逃げていただけで……







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