僕らのシナリオ
僕は一気に軽くなった心に気が抜けて、思わず笑いを漏らす。
中野からもらったスポーツドリンクを一口飲んで、目の前のグランドを見つめてみる。
相変わらず青春している野球部が、打ったり投げたり走ったり。
夏だな。
「………でも、さ。
突然家に行って言うの?飯島、夏祭りいっしょに行こ〜うって?」
僕がわざとらしくそう言うと、中野はユニフォームの衿元をパタパタと仰ぎながら、当たり前のようにうなずく。
「それしかないだろ。
ってか今のお前の場合、どんな台本を用意していってもそれしか言えないと思うよ。」
「…なるほどね。」
納得して笑いながら僕がまたスポーツドリンクを飲もうとすると、中野が横からそのスポーツドリンクを奪って飲み干す。
僕が顔をしかめて中野をにらんでいると、中野は手すりから離れて体育館の方を向き、一度振り向く。
「今日、行ってこいよ。」
空のペットボトルをビシッと僕に向けそう言う中野に、また僕は笑う。
それに満足したようにうなずいて体育館に向かう中野は、また足を止めて僕のほうに振り向く。
「うまくいった暁には俺になんかおごれよ!」
「はいはい。」
「明後日の試合見に来いよ!」
「はいはい。」
「ひとつ貸しだぞ!」
「わーかったから早く行けよ!」
僕が思わず叫ぶと、中野は今度こそ納得したように笑って体育館の中に入っていった。
僕はしばらく中野がいなくなった体育館を見つめ、ゆっくりとかばんを持ち上げた。
自転車に乗って、どこか身軽に見えるその姿に俺は笑った。
「中野ー。三宅はなんだったんだよ。」
「ん。別にー。」
部員に適当に返事をして、思わず頬が緩んで鼻歌を歌ってしまうのを抑えることなくシュートを繰り返す。
あいつらは結局似た者同士なんだ。
おんなじ顔して、相談しに来やがって。
昨日。
『中野くん。』
練習が終わってすぐ、蒸し暑い中家に向かっていると、後ろから声をかけられた。
振り向くと、予想外のやつがこっちを見て立っていて。
『…………飯島じゃん。』
飯島は少し思いつめたように、うつむいた。