僕らのシナリオ
『あのね、あれから私なりにがんばってみたの。』
『へ〜。良いことじゃん。』
『…………』
『……なんかあった?』
『……………なんだか、泪くんの様子がおかしいから…。』
『三宅が?』
『…うん。前にね、中野くんと海に行ったってお土産持ってきてくれたの。』
『あー行った行った。』
『でも、そのときの泪くんの様子が変で……それから連絡もとってないから、避けられてるかな…って……』
『………………。』
『もし、私が変なことしちゃってたら、どうしよう…………。』
『飯島。』
『…?』
『もうちょっと待ってやってくんないかな。』
『え?』
『もうちょっとさ、待ってよ。あいつのこと、待っててやって。』
『え、あの、待つって……』
『はは。待ってればわかるよ。』
『そ、そうなの?』
『ん。』
『……………そっか。』
昨日のことを思い出して、また笑う。
「はは。ったく……面倒なカップルだよな〜。」
そうつぶやいて、バウンドして戻ってきたボールをつかみ、開けっぱなしになった体育館のドアの外を見つめる。
「……………ま、それは俺も同じか………。」
そう言って、また、笑った。
「…………って言っても結局なんて言えばいいんだよ。」
僕は自転車をこぎながら思わずうなった。
だっておかしいでしょ。
突然夏休みに家におしかけて、たいした用はないのにただ訪ねて、来週の夏祭りに行こう、なんて急に誘うんだ。
そんなの。
そんなの、好きだって言っているようなもんじゃないか。
それにまたため息をついたところで、あと少しで目的地、というところで視線の先にあるものを見つける。
「はあ…………うそだろ……。」
思わず僕はまたため息をついた。
「飯島。」
呼ばれて振り向くと、ずっと会いたかった彼が自転車の速度をゆるめて近づいてきていて。
「あ、泪くん…………」
本当に会えてうれしくて、でも久しぶりだからなんだか恥ずかしくて、逃げだしたくなる衝動を私は必死でおさえていた。
「えっと……今日も部活だったの?」
「あ、えっと、ね……中野のとこに行ってきたんだよ。」
泪くんはなんだか落ち着かない様子で、自転車から降りてから答えるまで、私のほうを一度も見なかった。
私はそれが悲しくて、舞い上がっていた気持ちが小さくなっていくのを感じていた。