あの夏の君へ
近すぎて、気づかないもの。
遠すぎて、見えないもの。
たくさんあった。
そんな私たちに最初の歪みが訪れます。
「ちょっと……亜樹ぃ」
ある日の休み時間だった。
いつもは冷静な明美がこの日は慌てた様子で教室に入ってきた。
「何」
「噂聞いた?」
「何の?」
惚け顔の私に、明美は呆れながら続きを話す。
「亜樹、茜ちゃんが妊娠してたん知ってる?」
「……え…」
「知らんの?今、この噂で持ちきりやで?」
「…嘘やろ」
「本間やねんって。相手な」
明美の言葉を疑った。
“新井田くんやねんて”