あの夏の君へ




力になることすら、言葉を掛けることすら出来なかった。

「ごめん。分からん…」

「……」

「子供は下ろすって言われたら残酷すぎるし、二人の間に産まれたくて、今お腹にいる訳やし…。…ん〜上手く言えへん…」

伝えたい言葉に、整理が付かない。

まだ幼い彼は十七歳で。

同い年の女の子はお腹に命を授かっていて。

現実はいつも厳しく、冷酷やった。

「これが新井田たちの試練なんやろ。仕方ないやん」

他人事。

ごめんやけど、他人事しか言えん。


見つからん。


「分かった。茜と話し合うわ」


彼の出した答え。

それは正しかったでしょうか。

私が伝えた頼りない言葉は、何の役に立てたでしょうか。





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