あの夏の君へ





どうしても、私には荻が何かの犠牲になったとしか思えへん。

何かの代償になったとしか…考えられん。


あのバスに何十人って乗っててんで?

何で…荻だけなん?

何で…荻が死ななあかんの?



何でしか出てこうへんわ。

涙とともに、君との思い出とともに。





ニュースはもう君の話をせんよ?

殺人事件があったとか。

政治の問題だとか、そればっかり。

そんな話…誰も興味ないし。




“ああ、不幸やったんね”


それで丸く収めるように。

丸く片付けるように。


時間はいつだって、私たちの気持ちなんてお構いなし。




『亜樹氏…今日…あいつ葬式あるんやけど』

「行かへん」

『…でも…』

「行かへんから!!」

『……分かった…』



皆が心配して、電話やメールをくれる。

その度に…私はなんて良い友達を持ったんやろうとつくづく思う。

私は通夜にもお葬式にも行かなかった。


嫌やねん。

死んだ荻に会うのが。





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