あの夏の君へ
第一章
ただの男友達
高校一年、三月。
ほのかに暖かくなってきた気温が春の訪れを示す。
「亜樹〜帰んの?」
「あ、荻」
緑色のフェンス越しに野球部の男が声を掛けてきた。
彼、名前は荻 陽向(オギ ヒナタ)。
私と同じクラスで、斜め後ろの席に座る野球部男子。
気が合うし、一緒にいて楽しいし、とりあえず一番仲の良い男友達なのは確か。
「もうちょい待ってや。一緒に帰ろぉや」
「え〜…」
「何なん?え〜って」
あんたの“もうちょい待って”はいつも長いねん。
いつ終わるか予想なんて出来ん。
待ってるだけで、色んな事出来るし。
「お腹空いた」
「俺んちで飯食べてけや」