あの夏の君へ
電車に揺れながら、たくさん話をした。
昨日のテレビがどうかとか、担任がどうかとか、休みにどこか旅行に行きたいなとか、あそこ座ってる人誰かに似てるとか。
他愛もない話ばかりした。
それが楽しいから。
笑ってる顔が好きやから。
友達をやめられんかった…。
「でな、美嘉がさぁ」
返事がないと思って、隣を見てみたら、荻は疲れてたんか、寝ていた。
荻の頭が肩に乗っかる。
「お疲れ」
ガタンガタンと小さな衝撃を放ちながら、揺れる車内。
居心地が良いと感じた。
『間もなく――駅……』
夜空を見たときはあんなに遠く感じた距離も、電車やったらこんなにも速いんやな。
すぐ会える。
すぐ会いに行ける距離。
それが私たちに“余裕”を与えていたんだろう。
いつでも言える、いつでも一緒なんだという安心感が確かにあった。