あの夏の君へ
「そろそろ帰るかな」
「えっ…帰るん?」
「うん。終電無くなる前に」
携帯の時計は九時半を回っていた。
ケンの頭を撫でて、家の中へ入る。
「荻ママ、帰ります」
「あら、亜樹ちゃん。本間に?またいらっしゃい♪」
「はーい♪」
「亜樹ちゃん、バイバイ」
「バイバイ」
広太に挨拶して、リビングを出る。
チラッと見えたけど、茜とかまだいた。
呑気にテレビを見ていた。
…無性に腹が立つ。
なんで私は泊まらせてくれんのに、あの子らは泊まらせるんかよ。
話が見えんわ。
「お邪魔しました」
素っ気なく言い放ち、玄関の扉を閉めた。