あの夏の君へ
「あれ…スリッパのままやった…」
スリッパのまま外に出たことに今頃気づいて、笑ってしまった。
「バカみたい…」
段々と自分の眉が下に下がってくる。
荻…荻…。
「スリッパのままでどこ行ってたん?」
下駄箱の側で座り込みながら携帯を弄りっている男。
彼は目も合わさずに話し掛けてきた。
「…新井田」
「その名前の呼び方やめてくれへん?」
新井田は携帯を閉じて、立ち上がった。
「新井田って。洋一って呼んでぇや」
「何で私が…」
「一生距離が離れたままな気がして嫌やねん」
彼はそう言うと、立ち上がってポケットに片手を突っ込んだ。