あの夏の君へ





私にはない、思いやった。

何かひとつのものにそこまで打ち込めるなんてこと…私には出来ん。

だからありきたりな言葉しか伝えてあげられなかった。

きっと誰よりも悔しかったのは彼だった。

けれど誰よりも惨めやったのは私やったよ。

荻の苦しさを半分にも、四分の一にも、和らげてあげることができひんかった。

肩代わりしてあげることができひんかった。

あの時、私が彼の苦しみを半分に出来ていたら?

四分の一にでも和らげ、楽にさせてあげられていたら?

何かを変えられていたんやろうか。

何かが変わっていたんやろうか。

歯車は上手く噛み合っていたんやろうか。


私が彼の痛みを苦しみを半分に出来なかったから?

彼に全ての苦労を背負わせてしまったから?

だから運命の歯車は小さな石ころに気づかずに少しずつ歪な形へと変化していったん?





< 77 / 278 >

この作品をシェア

pagetop