あの夏の君へ
顔を歪めた彼は、いつもの彼ではなかった。
「亜樹ちゃんもあいつもウダウダしすぎ…。いい加減、正直になれや。別れが来るって分かってても、終わんように努力すれば良いだけやろ?」
一段ずつ階段をのぼる彼を見上げた。
「努力して頑張れば一個でも変わんねん」
その言葉が私の背中をポンッと押した気がした。
新井田……。
あなたはこの日やなくても、いつか必ずどこかで私の背中を押してくれたはずやね。
あなたの言葉で私は初めてスタートラインから一歩を踏み出せた。
あの時、君が背中を押してくれなかったら、今の私と荻も、あの頃の私と荻もきっといない。