雨のち晴れ。
こんな話をしている間に
警察庁についてしまった。
私を襲ってくる不安。
余裕なんて持てなくて...
怖いよ...
「大丈夫?」
井之上さんが、声を掛けてくれた。
「たぶん...」
「顔色、悪くなってるね。
 休んでからにする?」
優しく訪ねる。
「先に行きます」
休んでも、家族の顔を見てまた
気分が悪くなるのも嫌だし。
「そっか、あんまり無理しないようにね」
「はい」
「じゃあ、入るよ」
井之上さんが、歩き始める。
あたしは、井之上さんの後ろを着いて行った。



手を合わして入っていった個室には
変わり果てた、家族の姿が。
白い布を被っている。
「お父さん...」
顔に被せられていた布を取った。
冷たくなったお父さんが、寝ていた。
「ねぇ、どうして...
 どうして、私だけ残されるの?」
我慢していた涙が伝う。
お母さんも、お兄ちゃんも、冬花も、
冷たくなっていた。
生きている時の温かさはもう...なかった。
「ご遺体、間違いありませんね?」
井之上さんは、仕事上の言葉を
涙ぐんで言った。
「はい...間違いありません」
私は、認めるしかなかった。
他でもない、たった一つの家族だったから。
涙は、止まらない。

ずっと言えなかった言葉を
私は、家族に伝える事ができなかった。
ずっと胸の中にあった。
言うのが恥ずかしくて...
どうして言えなかったのだろう。
『大好きだよ、いつもありがとう』
短い言葉なのに。
後悔しても、もう...
家族は戻ってこない。



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