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ラファエルは長い沈黙を破って私に問いかけた。


「何か話しでもあるのか・・・?」


黙々と本を積み上げては紐で束ねる作業の中、我に返ったように顔を上げた。


「え・・・いや?」


慌てて否定して、またうつむいて手を動かした。


するとラファエルはダンボールを部屋の端へ運び、手を止めて言った。


「悪かったな・・・。」


「へ?」


私はあっけにとられて、彼を見上げた。

ラファエルはグランドピアノのふたを開けながら、続けた。


「お前に、がっかりさせたみたいで・・・。幻滅しただろう?薄情な俺に・・・。」


「え・・・いや・・・そんなことは・・・」


私は何を言っていいかわからなくなってしまった。

彼は椅子に腰掛けて、寂しそうに鍵盤を見つめた。


「わかっているんだ・・・。
ちゃんとやるべきことやってここを離れなきゃいけないということは・・・。
でもな、自分で言うのもなんだが、俺は二人と向き合おうと今まで努力してきたつもりなんだ。」


一つずつ、澄んだピアノの音を部屋へ響かせながら彼は言った。


「本当の子供じゃないから・・・。
だからこそ、向き合って愛してもらえるよう、小さい頃から愛嬌振りまいてみたり、学力あげて褒められてみようとか・・・。」


聞けばどうやらラファエルが両親に無関心なのではなく、両親が彼に無関心だったようだ。

本当に、会社を継ぐ者が欲しいがために、彼をひきとったかのように・・・。


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