IF
「色々したりして、まぁ・・・色々失敗に終わったけど。
所詮跡取りのためだからしょうがないのかな、って考えて、小さい頃は会社を継いでやろうと頑張って勉強していた。
二人が喜ぶなら、と・・・。」


そんな・・・

お前は道具じゃないのに・・・物のように扱われていたのか・・・?



白い鍵盤をなぞりながら語る彼は、まるで一人ぼっちの少年のように悲しげだった。

一人、取り残されたように・・・。


「だけど、それは大人になればできないって思うことだろ?
やっぱりやりたいことができるわけだからな・・・。
けどな・・・期待してくれるから頑張っていた。
でも、それでも・・・」


彼の泣きそうな表情が痛々しくて、私は目をそらした。


「嫌だと・・・言うのが、怖かった。反抗して、怒られたらどうしよう、と」


自分はこの家に居られなくなる・・・?

ずっと寂しさに耐えに耐えて、優しかった両親を思い出しては泣き続けて・・・。

そんな自分を暖かい家へ招き、家族になってくれた人間を裏切るのか?

だけど・・・自分の意志は正反対に進んでいくようだ・・・。

確かに優しく接してくれたはずなのに、本当の子だと、認めてくれたと思っていたのに・・・。


やっぱり跡取りなんて嫌だと言ったら・・・


そう考えると・・・怖くて眠れない夜が続いた。


一度無くした暖かい家族と家を、もう一度なくすのか?

そう思うと自分が壊れそうで・・・泣きやめなかった。


夜は・・・そんな夜はひどく長かったのを、今でもはっきり覚えている。


いつの間にか窓の外は暗くなって月が見え始めていた。


「そうだな・・・なんだか疲れてしまったんだ・・・。」


そう言った彼の声は、依然の大人の彼の声に戻っていた。

私は顔を上げて、彼の表情を伺った。


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