IF
だから私は彼が決めることや彼が選ぶことに口出しなんてできない。

彼は自分の不安や悲しみを一人で超えてきたのだから・・・。
だったら私に出来ることといえば、間違ってない、それでいいんだ、と彼の道を応援することだと思った。

私が言わなくても、やらなければならなかったはずのことを、理解していたのだから、きっと大丈夫だと思えたんだ。


「幻滅なんて、しないさ・・・。」


月は神々しく輝いて、私たちを見下ろしていた。


「・・・ありがとう。」


彼は静かにそう言って、闇に解けてゆくメロディを奏で続けた。

私は明日のコンサートを楽しみにしながら、彼の後姿を見ていた。


わずかに見える彼の白い頬に、雫がつたったような気がしたが、私はただ目を閉じて彼の演奏を聞き入ることにした。


その一滴・・・拭ってくれる相手がお前の傍に現れて欲しい。


今は余計な願いだろうか・・・。


だけど、お前がアイリスに生きる希望を与えてくれたように、俺がアイリスからそれを貰ったように・・・

お前にも暖かい光を受け取って欲しい。


その涙が、永遠の美しさを保つには、もうお前は独りではダメだ。

今度は、決意の涙や悲しい涙ではなく、嬉し涙を流してくれ。


誰もが愛されるために生まれてきたのだと・・・どうか気づいてくれ。


私は、叶うことを知らぬ願いを祈った。

そして夜空を見上げて、光り続ける星のような涙の永遠があることを信じた。

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