IF
シュラは心の中でそう思った。
夜明けの鐘は初めて聞いた。
今まで毎日耳にしていたはずの音が、今は心臓に響くように体を駆け抜ける。
わけのわからない事態にシュラは振り向いたまま凍りついていた。
するとトランクを後ろの座席に乗せていた青年が声をかけた。
「おい、『いってらっしゃい』だとよ。」
少しひやかすようにそう言った。
「・・・行こう。」
誰も知るはずがない彼の旅立ちを、いったい誰が祝福してくれているというのだろう。
シュラは振り切るように助手席に乗り込み、そっけなくドアを閉めた。
鐘はしばらく鳴り続けていた。
そして車が出発する頃、静かに鳴り終わった。
シュラは黙ったままフロントガラスを見つめ、張り詰めた気持ちでいた。
車は走り続け、ロンドンへと下町の廃墟をどんどん通り越していく。
彼はもう振り返ることはなかった。
その日
髪を切って、初めて金髪に染めた。
何故か本当の「外」に出られたような気がした。
自分の故郷も
自分の意思も
自分の姿も
自分の過去も
自分の傷みも
すべて誤魔化し隠すように、逃げるようにそこを飛び出した自分。
黒いものを明るく塗りつぶすだけで、簡単に変われると思っていた。
時は経ち、やがて俺の金髪は半年近くで色が抜け始め、漆黒の髪が現れていた。
その頃の自分は、またその上から染め直せばいいとばかり考えていた。
だがそのときは、自分の抱えてゆくはずのものに気づきたくなくて、子供だったんだ。
ただその日は、空が青かった。
それだけは、はっきり覚えている。
夜明けの鐘は初めて聞いた。
今まで毎日耳にしていたはずの音が、今は心臓に響くように体を駆け抜ける。
わけのわからない事態にシュラは振り向いたまま凍りついていた。
するとトランクを後ろの座席に乗せていた青年が声をかけた。
「おい、『いってらっしゃい』だとよ。」
少しひやかすようにそう言った。
「・・・行こう。」
誰も知るはずがない彼の旅立ちを、いったい誰が祝福してくれているというのだろう。
シュラは振り切るように助手席に乗り込み、そっけなくドアを閉めた。
鐘はしばらく鳴り続けていた。
そして車が出発する頃、静かに鳴り終わった。
シュラは黙ったままフロントガラスを見つめ、張り詰めた気持ちでいた。
車は走り続け、ロンドンへと下町の廃墟をどんどん通り越していく。
彼はもう振り返ることはなかった。
その日
髪を切って、初めて金髪に染めた。
何故か本当の「外」に出られたような気がした。
自分の故郷も
自分の意思も
自分の姿も
自分の過去も
自分の傷みも
すべて誤魔化し隠すように、逃げるようにそこを飛び出した自分。
黒いものを明るく塗りつぶすだけで、簡単に変われると思っていた。
時は経ち、やがて俺の金髪は半年近くで色が抜け始め、漆黒の髪が現れていた。
その頃の自分は、またその上から染め直せばいいとばかり考えていた。
だがそのときは、自分の抱えてゆくはずのものに気づきたくなくて、子供だったんだ。
ただその日は、空が青かった。
それだけは、はっきり覚えている。